「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」Q&Aイベントでジョシュ・サフディ監督らが制作の裏側について語る【NY発コラム】
2026年1月21日 21:30
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.第83回ゴールデングローブ賞で主演男優賞(ミュージカル/コメディ)を獲得した人気俳優ティモシー・シャラメが主演する話題作「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」の試写、Q&Aイベントが、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催され、メガホンを取ったジョシュ・サフディ監督、製作を担当した遠藤麻衣子、衣装を担当したミヤコ・ベリッツィ、エンドウ役を任された聴覚障害者の卓球選手、川口功人が登壇し、制作の裏側について語ってくれた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)
本作は、1950年代のニューヨーク(NY)を舞台に、実在の卓球選手であるマーティ・リーズマンの人生に着想を得た物語。
卓球人気の低いアメリカで世界を夢見る天才卓球プレイヤー、マーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)は、親戚の靴屋で働きながら世界選手権に参加するための資金を稼ごうとするが、ロンドンで行われた世界選手権で日本の選手エンドウに敗れたことで資金が集まらず、次回日本で行われる世界選手権へ参加し、エンドウを破って世界一になるために、ありとあらゆる方法で資金を稼ごうとするというもの。


そして、脚本を書くうちに僕は80年代へと引きずり込まれていった。この映画はまさに、86年に孫娘とティアーズ・フォー・フィアーズのコンサートで、アメリカの歌手カート・スミスが楽曲「エブリバディ・ウォンツ・トゥ・ルール・ザ・ワールド」を歌うのを見ている祖父となったマーティの視点から書かれている。過去が未来を徘徊し、未来が過去を徘徊する。過去と未来が互いに徘徊し合う存在論的性質(存在そのものの本質やあり方を問う哲学の分野である存在論において、存在者が持つとされる特性や特徴を指します)の意味を理解できる設定になっているんだ。
また、80年代は最初のポストモダン時代であり、過去を再訪する時代でもあった。アメリカン・ドリームのような概念が当時「」で囲まれるようになり、レーガン政権下で荒削りな個人主義が再燃し、アメリカの繁栄と豪華さを追い求める風潮が生まれた。そんな時代背景が組み込まれたのが、ニューウエーブの音楽だ。1950年代にはブルース音楽が取り入れられ、それはかなり憂鬱で美しい音楽だったが、悲しみを表現しビートを乗せていた。でもロックンロールと、今作の最後の楽曲「エブリバディ・ウォンツ・トゥ・ルール・ザ・ワールド」は誰もが欲しがる曲なんだ。(80年代の)世界は確かに刺激的だが、歌詞に耳を傾ければ不安もこびりついている。しかし、それは非常に熱狂的なビートに乗せられているからなんだ。
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このアウトサイダーや落ちこぼれのサブカルチャーについて誰も語らないのは、彼らの夢を誰も本当に尊重しなかったからなんだ。でも彼らは非常に切実な人々だった。川口功人のキャラクター、エンドウのモデルとなった選手は(卓球の)佐藤博治選手で、彼は実在の人物だ。そして日本は1952年、(彼の勝利によって)卓球を通じて(米国から)独立したんだ。
それは私にとって非常に興味深いことでした。戦後の日本は実に興味深い場所で、あれほど包括的な敗北は二度と目にすることはないだろう。受動的植民地主義の始まり、などなど。だから私はこの民衆の英雄(佐藤博治)に魅了されたんだ。ほとんどの日本人が知らない時代に突如現れた人物だ。卓球を普及させた荻村伊智朗(第3代国際卓球連盟会長)は知られていても、佐藤博治は誰も知らない。彼は1952年にインドに現れた職人であり、日本の発明家が設計した卓球のラケット(スポンジラバー=1950年頃、かつて日本軍が軍用機の燃料タンクを防弾・保護するために使用していたスポンジが卓球ラバーに転用されたもの)で全員を打ち負かした。そのラケットの名は「アトミック・パドル(アメリカで呼ばれている)」。実に興味深い話なんだ。
ニュース映像に何とか収めようと必死だった。おそらく可能だっただろうが、でもどこをカットすべきか探る段階に陥ってしまう。そこで、この件について麻衣子と話し合ったんだ。わたしの叔父は1955年に東京でバル・ミツヴァ(ユダヤ法を守る宗教的・社会的な責任を持った成人男性のことである)を迎えたことがあり、私は日本文化に強い関心を持っていたため、この件(卓球の話について)麻衣子さんに連絡を取ったんです。彼女は「そんな話は聞いたことがない」と言っていました。ほとんどの(日本)人は知らないんです。でも、これは日本の歴史においてかなり重要な瞬間なんです。小さな物語を通してこそ、大きな絵を描くことができると私はいつも感じている。日本で彼女(麻衣子)が私のそばにいてくれたおかげで、コト(川口選手)を見つけることができたんだ。
あの役柄のキャスティングで彼女に頼んだんだ。すごく難しかったから。彼女が紹介してくれたのがピコ・アイアー(エッセイスト、小説家)で、1952年(佐藤博治)の卓球についてのTEDトークで話していたんだ。それを見た時、ちょうどロニー(共同脚本家ロナルド・ブロンスタイン)と脚本を書いていて、こいつは信じられないって思った。(ピコは)作家であり哲学者で、俺は彼(ピコを)を敵対的で嫌な奴役(ラム・セティという卓球界のトップの人)にキャスティングしたんだ。
彼(ピコ)を知っている人ならわかるだろうが、彼は信じられないほど穏やかな人なんだ。タイム社で働いていたこともあって、素晴らしい作家であり、素晴らしい人間だ。信じられないほど穏やかだ。(最終的には)カットしたシーンで怒る必要があると伝えたことがあって、すると彼は、「ジョシュ、私は人生で一度も怒ったことがない」と言ってきたので、私は(ジョシュ)は「それが見たいんだ」と伝えたんだ。その様子を見てみたいと思ったからだ。
とにかく、それが麻衣子に連絡した理由さ。アメリカのプリプロダクション作業がかなりあったから、本当に助かったよ。芸術的に尊敬し信頼できる人物が、僕の映画で何を重視しているかを理解した上で、現地の部門責任者たちとコミュニケーションを取ってくれるのは心強かったんだ。

だから、それ(聴覚障害であること)を導入するには良い方法だった。キャラクターを、本来そうではない人物として描きたくはない。特に(川口功人選手のように)演技経験のない人物なら尚更だ。キャスティングとは、その人物の魂を選び、その人物と共にキャラクターを通して自己表現を導く作業だからだ。
そして(映画内での)全英オープンで優勝したシーンを撮影していた際に、彼と話したことを覚えている。彼に「勝利はどんな感じなのか?」と問いかけたんだ。彼(川口選手)は「(勝利には)大きな安堵がある」と言ってくれて、(実際のシーンでは)地面に倒れ込んだシーンを撮れた。信じられない光景だった。スタッフ全員が驚いていた。VFXコーディネーターの妻が日本滞在中に、彼が(感情で)謙虚さを失う瞬間を目撃したからだ。非常に微妙な瞬間だった。(映画内の役柄エンドウは)ほとんど不透明で、読み取れない。だからこそ、コーディネーターの妻は「彼は最高の俳優よ」と言っていた。彼(川口選手)は、そのシーンについて話しかけてくれて、彼は「卓球の選手としての契約をしたけれど、これほどまで俳優として演じる契約はしてないよ」(ジョーク)を言ってきたんだ。

そしてロウアー・イースト・サイドでは、特に私のお気に入りのシーンの一つであるボウリング場とそのカラフルさを、服で表現したかった。それから俳優たちに実際に(衣装合わせで)会います。私にとって、俳優自身の姿も、それがわたし作品(衣装)の多くをかたどるとも思っています。
そしてジェンは、新しいキャラクターについて話し合うんです。ジョシュと私もそれは同じ考えで、これも重要な要素の一つです。
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.あなた(遠藤)が共有してくれた打ち上げパーティーの動画を見て思ったんだけれど、麻衣子は「彼(ジョシュ)はすごく厳しい」と言っていたよね。直接的に、最初は本当に傷ついたんだけど、後で気づいたんだが、多分、あれはある意味では褒め言葉なんだろうなって。
現地(日本)に着くとエキストラが大量にいて、約450人。ここ(ニューヨーク)には3300人のエキストラがいたけど、一人ひとりを役柄で話せるかのように扱ったんだ。いつインスピレーションを受けて(そのエキストラの中から)誰かを引っ張り出し、大役を任せるか分からないからね。
私たちは本当に、エキストラのキャスティングからプロデューサーのジェンに至るまで、皆で人を集めて前面に立たせ、一緒に作業していました。通常、エキストラ全員の衣装を担当するのは衣装デザイナーの仕事ではありませんが、今回は日本に来てから全てのエキストラが…彼女(ミヤコ)は長時間現場にいて、一人ひとりの衣装をデザインし、経済状況や様々な社会階層の人々、そして現地のティーンエイジャーの服装まで少し異なる様子にしていた。実際にはパーカーを着ている人物が一人いるくらいまで、確実に表現できるようにしていた。
(そんな細かい衣装を見て)ルカという編集助手が私に言ってきたんだ。「あれはクルーの一員ですか?」と。彼が「ただパーカーを着てるだけの方です」と言うから、私は「いや、よく見て」と言い返したんだ。すると彼は「ああ、これは時代物のパーカーだったんですね」と気づいたんだ。それくらい詳細に(衣装を)付け加えていったんだ。
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.麻衣子に聞きたい、川口功人を今作に出演させるのは非常に困難だったが、彼の(卓球の)映像を見た時、なぜ私に共有する必要を感じたんだい?
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.でも、私はこの会社(豊田)で働いているし、仕事を休めるかどうか分からない。相談しなければならない人がたくさんいると思ったんです。麻衣子さんがそれを通訳してくれた後に、ジョシュがこう言ってきたんです「いや、それは問題じゃない。私が直接あなたの会社に行ってCEOと話して、この重要性を説明するよ」と、僕は、ジョシュがこれほどまでに(映画を)やりたがっていることに感銘を受け、奮い立たされました。会社には「実現不可能かもしれない」と思いながらも全てを伝えました。すると会社側が言ったのです。「これは一生に一度のチャンスだ。絶対にやるべきだ」と。
最初はみんな「これって詐欺? 絶対に詐欺だ」って思ってました。でもジョシュとキャスト、クルーについて調べてみると、このチャンスが自分の目の前に転がっていたことに気づいたんです。
その後、アンディ(川口の通訳者)が病院で息子を抱いている写真を送ってきてくれたんだ。この映画を作ったことで、彼とすごく親密な気持ちになって、本当に信じられない瞬間だった。彼に、日本語字幕付きで初めて(このジャパン・ソサエティー)でその映画を観た感想を聞いてもらえました。
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.ディエゴ・スコット(卓球の振り付け師)と共に事前に何ポイント分まで振り付けを決めたり、何百ものポイントごとに台本を作成し書き留めたのかはわからないですが、各テイクの合間に水を飲みながら「よし、次はこれだ」と確認していました。彼のその記憶力と、うまくいかなかった時の即興対応力が、僕が最も感心した点でした。
ロンドンと東京の両方で、周囲の数百人のエキストラに囲まれながら。彼らが準備を整えてくれていたことに、私は心から感謝したんだ。
(C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.執筆者紹介
細木信宏 (ほそき・のぶひろ)
アメリカで映画を学ぶことを決意し渡米。フィルムスクールを卒業した後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニングサテライト」のアシスタントとして働く。だが映画への想いが諦めきれず、アメリカ国内のプレス枠で現地の人々と共に15年間取材をしながら、日本の映画サイトに記事を寄稿している。またアメリカの友人とともに、英語の映画サイト「Cinema Daily US」を立ち上げた。
Website:https://ameblo.jp/nobuhosoki/
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