【「デッドプール&ウルヴァリン」評論】魂剥き出しの二人が辿る世界は、かつてない驚きと楽しさでいっぱい!
2024年8月4日 14:00

過激でお下劣なヒーローが物語のメインを張るのも3作目。気づけば我々にもだいぶ耐性ができ、もはやちょっとやそっとの刺激では驚かなくなっている。作り手に残された道は二つに一つ。さらに過激化するか、それとも予想を超えた一撃を喰らわせるか―――選び取られたのは革新性が最も試される後者だ。そして彼らはこの戦いに見事打ち勝った。
本作ではタイトル通りウルヴァリンが登場し、デッドプールと互いに血まみれになってたこ殴りし合うほど仲睦まじいタッグを組む。「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」(2009)を知る人にとっては彼らの共演はまるで弧を描くような歴史的瞬間でもあるわけだが、今回、彼らがいかにして巡り合うかについては非常に込み入った話になるので説明は差し控えておきたい。
その語り口は相変わらず身軽に時制を行き来し、第4の壁をひょいと超えて観客との積極的なコミュニケーションを繰り返す。それも序盤からディズニーによる20世紀フォックス買収という極めてデリケートな話題を持ち出し、単なる毒舌ジョークとして矛を収めるのかと思いきや、それを切り口にどんどんスイングの度合いを強めていく。
やがて二人が「虚無」と呼ばれるデスロードに降り立つ時、謎の多いその地の真実が少しずつ明かされるにつれ、誰もがいよいよ「やられた!」と感じるはず。ここで浮かび上がるのは、旧時代に置き去りにされ、すっかり忘れ去れた者たちの記憶。多くのヒーロー映画が乱立する中で、彼らのことを慮ってこれほど率直に言及しているのは本作だけだろう。いつも白目マスクで過激な行為を繰り出すデッドプールだが、今回は観客が心に蓄積したモヤモヤさえ汲み取り、巧みに代弁してくれているように思える。
どんな発想でくるかわからない趣向の連続、共に打たれ強いバディ(治癒能力の鬼)が織りなすとびきりの化学反応、そして観客に向けて発せられるタブーなき言葉の連打…などなど、まさに息つく暇がないほどの面白さが詰まった本作。シリーズに新風を吹き込ませるにあたってショーン・レヴィ監督だといささかベテラン過ぎるのではと危惧していた筆者だが、実際のところ見事なテンポ感で物語の荒唐無稽さ&キャラの矜恃を存分に描いてくれたと今では本気で感謝している。時は巡る。本作があるからこそ、マーベルはまた前を見て進んでいける。その意味でデッドプールはまさに救世主と呼ぶにふさわしい存在なのかもしれない。
執筆者紹介
牛津厚信 (うしづ・あつのぶ)
映画ライター。77年長崎生まれ。明治大学を卒業後、某映画専門放送局の勤務を経てフリーに転身。クリエイティブ・マガジン「EYESCREAM」や「パーフェクトムービーガイド」などでレビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。またイギリス文化をこよなく愛し、その背後にある歴史や精神性を読み解くことをライフワークとしている。
Twitter:@tweeting_cows/Website:http://cows.air-nifty.com/
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