「女鹿」「不貞の女」「肉屋」官能的な女たちの極上サスペンス「クロード・シャブロル傑作選」予告編
2026年1月30日 18:00

サスペンスやミステリーの巨匠として、半世紀にわたりフランス映画界をけん引してきた映画監督クロード・シャブロルの傑作3本をラインナップした「クロード・シャブロル傑作選」の予告編(https://youtu.be/JEJ_EPFyYbg)、秦早穗子ら映画人からのコメントが公開された。
ヌーベルバーグの幕開けを告げた「美しきセルジュ」(58)以降、毎年のように作品を発表、長きにわたってフランス映画を代表する映画監督として一線で活動したシャブロル。長編だけで54本の監督作を遺したとあって我が国では未公開の隠れた傑作も多いが、人間の愚かさや悪に向き合い続けた眼差し、恐怖とユーモアの絶妙なバランス、モラルや常識をいとも簡単に飛び越えて描かれる研ぎ澄まされた物語が特徴だ。本特集では、長いキャリアの中でも絶頂期といえる、極上のサスペンス三作を公開する。
「女鹿」は、今回上映する三作品全てに出演する女優ステファーヌ・オードラン、ジャクリーヌ・ササール(「お嬢さん、お手やわらかに!」、「できごと」)、ジャン=ルイ・トランティニャン(「男と女」、「愛、アムール」)が共演した官能的なサスペンスドラマ。女たちの支配と服従、入れ替わりなどの要素を交えた、シャブロル史上もっともミステリアスで蠱惑的な作品とも言える。
続く作品は、幸せな家庭生活を送っているように思えた夫が、妻が浮気していると知って私立探偵を雇ういわば“不倫もの”である「不貞の女」。いくつもの作品で繰り返されてきた、単純な男女の「三角関係」を扱いながらあっと驚く深淵へと誘う、シャブロルにとっても最大の自信作。「肉屋」はフランス南西部の村を舞台に巻きおこる殺人事件と、村で出会った男女の奇妙な愛の行方を描く。いくつものアートが登場するインテリアと、赤を貴重とした映像美も魅力だ。
「クロード・シャブロル傑作選」は、2月13日から、シネマリス、Morc阿佐ヶ谷ほかで開催。
「女鹿」の女同士の関係と彼女たちの嫉妬。「不貞な女」における夫婦の在り方。「肉屋」の複雑な男と女の状況。
ヒチコック風のスリラー、その中でブルジョアー階級が持つ偽善性を暴く。
シャブロルの風刺が、彼流のスタイルとなっていく転換期の重要作品である。
以降、浮き沈みはあったにしても、それさえも、よしとするシャブロルの斜に構えたスタイルを、今こそ賞味する時が来た。
階級構造の歪み、その最前線にシャブロルは女たちを置いた。
だから女たちはいっそう冷ややかに強硬に不可解になっていった。
それは行為よりも態度としてあらわれる。
やがて革命的な兆候すら消し去っていくシャブロルの、その直前でいまだ冷笑や享楽や変身の可能性に女たちがくぐもって光った時期の三作品。
気高く、妖しく、美しく。優雅だが冷淡な翡色の瞳で、周囲の心をかき乱す。
シャブロルはそんな謎めく女性像をこしらえ、眼鏡の下でほくそ笑む。
妻で女優のステファーヌ・オードランは、夫の倒錯的な演出の悦びに、完璧にこたえる最高の共犯者だ。
本国フランスでは定番の傑作群。日本公開まで半世紀の時間が流れたが、作品の魅力は真空状態で封じ込められた。
そして今、解放された瞬間、甘く危険なサスペンスの芳香で、観る者の心もかき乱す。
殺人者たちの生態観察。抑制された演出はひっそりとサスペンスを忍ばせ、無表情な俳優によって感情は推測に託される。そして気がついた時には既に凶器が振り下ろされており、その瞬間だけの劇的なカッティングに目が眩む。ステファーヌ・オードランの透けそうな水色の瞳のように、シャブロルの映画は冷徹な魅力をまとっている。
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