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クリストファー・ノーランに手紙で相談、日本初70ミリフィルム使用の「黒の牛」蔦哲一朗監督のこだわり

2026年1月24日 10:00

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全編フィルム撮影にこだわった
全編フィルム撮影にこだわった
©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS

第49回香港国際映画祭にて日本映画初の火鳥賞(グランプリ)を受賞した映画「黒の牛」(公開中)。本作を全編フィルムで撮影した蔦哲一朗監督のコメントと、国立映画アーカイブに所属するフィルム・アーキビストの岡田秀則の「牛と映画」への考察、そして本編映像が披露された。

映画は、禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した「十牛図」から着想を得て、全編フィルム撮影にこだわり8年の歳月をかけ完成させた蔦監督の長編第2作。主演はツァイ・ミンリャン監督作品で知られるリー・カンション、映画「国宝」で歌舞伎役者・小野川万菊を演じ、強烈な印象を残した田中泯が禅僧を演じ、音楽は生前参加を表明していた坂本龍一の楽曲を使用。撮影も長編劇映画では日本初となる70ミリフィルムを一部使用している。

画像2©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS

「フィルム以外では映画を撮らない」と明言し、独自の映像哲学で映画制作を続ける蔦哲一朗監督。2013年に35ミリフィルムで撮影した長編デビュー作「祖谷物語 おくのひと」に続き、本作も全編フィルムで撮影し、長編劇映画の撮影としては日本初となる70ミリフィルムも一部 で使用している。フィルムへの偏愛が始まったきっかけを「東京工芸大学1年生の時に16ミリカラーフィルムの実習があり、フィルムと出会いました。感光したら使えなくなるとか、撮り直しのできない、デジタルにはないスリリングさに惹かれたのだと思います。最終的には現像液を薬品から自分で調合して作ったり、ネガとポジのダイレクトプリントやネガ編集など、フィルムを作る以外のすべての過程を自分でできるようになっていました」と話す蔦監督。

画像3©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS

その後、今もフィルム撮影での映画制作を続けている理由については「1番は、フィルムでないと自分が楽しめないからです。デジタルの映像がどんなに進化して、フィルムルックに近づいても、興味が湧かないのです。フィルムとデジタルの違いということで粒子の話はよく出ますが、私はそれだけではなく、感覚的にフィルムの画の方が自然な色味で心地よく、芸術作品としての崇高さを感じています」と語った。そして、70ミリフィルムでの撮影を敢行するにあたり、「オッペンハイマー」などで知られる巨匠クリストファー・ノーラン監督に助けを求める手紙を書くことに。

「今回、日本長編映画で初めて70ミリフィルム(65ミリフィルムネガ)での撮影を敢行すると決めたのはいいものの、日本ではカメラも手配できず、現像もできなかったので困っていました。本作のプロデューサーであるエリック・ニアリ氏の友人を辿って、思い切って手紙を託しました。するとノーラン監督自身が読んでくれたのです。残念ながら具体的に何かの手助けをしてくださるまでには至らなかったのですが、代理人からノーラン監督が私の手紙に感動していたので、また連絡するというお返事をいただけました。そのことが制作意欲となり、日本で唯一の70ミリフィルムが撮影できるカメラを持っていた方と繋がり、現像は、『オッペンハイマー』なども手がけたアメリカのポストプロダクションの老舗フォトケムに撮影済みのフィルムを送り、何とか最後までやり遂げることができました。今はノーラン監督へ『黒の牛』を観てほしいと再度お手紙を書いて返事を待っています」とその経緯を明かす。

蔦監督が8年の歳月をかけ「自分の30代全てを捧げた」という並々ならぬ努力と熱意のもとに完成した奇跡の作品と言えるだろう。このほど公開された本編映像は、「遠景の山々の濃淡の美しさは、白黒フィルムならではだと思う」と監督が語る映像美を捉えたシーンだ。

画像4©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS

また公開劇場で販売中の本作のパンフレットに寄稿している国立映画アーカイブに所属するフィルム・アーキビストの岡田秀則は「『黒の牛』は、牛という動物がいかに美しいかを気づかせてくれる」と絶賛。

そして、映画と牛との深いつながりについて「古代エジプトの頃から、牛は有用であるだけでなく、信仰の対象になるほどの神聖な生き物であり、美しいと見なされていたに違いない。そして、その頃から接着剤として膠(にかわ)が牛皮から製造されていたことが、ピラミッドから発掘された棺や工芸品から分かっている。その主成分 はコラーゲンだが、現代のゼラチンとは精製の度合いが異なるだけで、ほぼ同一の物質である。ゼラチンの工業的な生産は17世紀末のヨーロッパに始まり、 18世紀にはイギリス、19世紀にはフランス、アメリカ、ドイツでも産業化された。19世紀初頭までは牛の皮が主原料だったが、1814年にイギリスで脱灰牛骨の製造技術が確立するとともに工業的な骨ゼラチンの製造も開始され、また食用ゼラチンも生産され始めた。

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そして19世紀の後半、写真の乳剤にゼラチンが応用されて、ゼラチン工業はさらに発展する。写真乳剤に使われるということは、言うまでもなく、それに続く発明品である映画フィルムに塗布される乳剤にもなるということだ。こうして牛皮と牛骨は、映画の本質的な材料となった。ゼラチンは人工的に精製できない以上、そのことは 今でも変わらない。現代人はゼリーやグミを食べ、病気になればカプセルの薬を飲むが、130年の歴史を持つに至った映画もいまだに牛を必要とする。コダック社は今日も映画フィルムを製造し、上映プリントをこしらえる現像所も随分減ったとはいえ稼働中だ。牛の恩恵は終わらない」と記している。

映画はヒューマントラストシネマ有楽町、新宿K'sシネマほか全国公開中。

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