「海賊のフィアンセ」あらすじ・概要・評論まとめ ~女性蔑視の男社会を蹴散らし笑い飛ばす、不出世の女性監督の傑作~【おすすめの注目映画】
2025年12月25日 09:30

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、「海賊のフィアンセ」(2025年12月26日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。
(C)1969 Cythère films – Paris保守的な価値観に抵抗する女性たちを描き続けたアルゼンチン出身の映画作家ネリー・カプランが、「現代の魔女の物語」として撮りあげた1969年製作の長編劇映画第1作。
マリーと母は保守的な村社会から除け者にされて暮らしてきた。母が亡くなると、マリーは村人たちを相手に売春をするようになる。男たちから稼いだ金で、さして必要のない物を買い続け、彼女のあばら屋は物であふれていく。
ヌーベルバーグを支えた俳優のひとりであるベルナデット・ラフォンが主演を務め、「穴」のミシェル・コンスタンタンが共演。「プレイタイム」のジャン・バダルが撮影を手がけ、シンガーソングライターのジョルジュ・ムスタキが音楽、伝説的シャンソン歌手バルバラが主題歌の歌唱を担当。日本では、特集上映「ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」(2025年12月26日~、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次公開)にて劇場初公開。
(C)1969 Cythère films – Parisアニエス・ヴァルダ、シャンタル・アケルマン監督と並んで、フェミニスト映画の先駆的な映画作家として知られるネリー・カプランの、1969年の初長編監督作が「海賊のフィアンセ」である。
もっとも、カプランの作風は他のふたりと比べるとより大衆的だ。その華々しい武勇伝(本作のラストシーンを書き変えなければ公開禁止にすると言った検閲機関の担当者に食ってかかり、18禁に変えさせた。ちなみにその後16禁からさらに13禁になり、最後はレーティングなしになったという)に語られる闘争的なイメージとは裏腹に、明るく、自由で、どこまでも突き抜けている。この快活さこそが、コメディを得意とした彼女の持ち味だろう。
(C)1969 Cythère films – Paris故国アルゼンチンからパリに出てすぐに、御大アベル・ガンス監督の助手として働き始め、ドキュメンタリー作家、脚本家、俳優などさまざまな肩書きを持つ彼女が38歳で撮った本作は実際、今日のキャンセルカルチャーのご時世では作れないのでは、と思わせるような大胆さに貫かれている。
排他的な田舎町で虐げられ、雑用係として生き延びてきたマリーは、母親の死をきっかけに村人たちに復讐することを決め、男たちを(女すらも)誘っては売春行為に及んで金を巻き上げる。目的は金ではなく、あくまでリベンジ。稼いだ金はガラクタに費やし、彼らの妻にバレればなおさら結構とその行動はエスカレートしていくが、あるときマリーは思い立ったようにものであふれた自身の掘立て小屋に火を放つ。
本作についてカプランは、「自分を火刑にするのではなく、異端審問官たちを火刑に処す現代の魔女の物語」と評しているが、「魔女狩り」に合う前に惨めな記憶の詰まった場所を一掃し、さっさととんずらを決めるマリーは、伝統的な男尊女卑社会を覆すラジカルな反逆者であり、なおかつ物質社会にとらわれないアンチ・マテリアリズムの象徴という見方もできる。
(C)1969 Cythère films – Parisこのアナーキストをいとも軽やかに、茶目っ気たっぷりに演じているのが、「ママと娼婦」(1973)などで知られるヌーヴェル・ヴァーグのミューズ、ベルナデット・ラフォンだ。彼女のどこかあっけらかんとして悪びれない魅力が、本作に乾いたユーモアをもたらしている。
ちなみに途中、車に貼られたポスターでちらっと登場するのが、ルイス・ブニュエル監督が昼は自ら娼婦になる人妻を描いた「昼顔(1967)」。因習にとらわれない女性に対する、カプラン監督のオマージュが伺える。
見かけは暴走し放題でも、その奥には確固としたビジョンをたたえ、革新的な女性像をスクリーンに刻んでみせたカプラン。「あのピカソも驚いた」というのが頷ける。
執筆者紹介
佐藤久理子 (さとう・くりこ)
パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato
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