【「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」評論】ツヴァイクの原作を大胆に映像化、チェスを通して人生を描く緊迫のドラマ
2023年7月23日 18:00

ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」に着想を与えるなど、今も高い人気を誇るオーストリアの国民的作家シュテファン・ツヴァイク。その遺作中編「チェスの話」を「アイガー北壁」のフィリップ・シュテルツェル監督が映画化。ゲシュタポに囚われた男がチェスの才能に目覚め、世界王者に挑むまでを描く。
1930年代のウィーン。貴族たちの財産を管理してきた腕利き公証人ヨーゼフ(オリバー・マスッチ)は、社交界の名士として優雅な日々を過ごしていたが、オーストリア併合によって逮捕されてしまう。ナチの将校ベーム(アルブレヒト・シュッフ)は顧客情報を聞き出すためヨーゼフをホテルの一室に監禁、外界からの刺激を全て遮断する。精神的な拷問に屈しそうになったヨーゼフが偶然手に入れたもの、それは過去の名勝負を網羅したチェスのスコアブックだった。
俳優で書評家でもあった児玉清を始め、日本でも熱心なファンを持つユダヤ人作家ツヴァイク。裕福な家庭に生まれ名門ウィーン大で哲学博士号を取得し、アントワネットやフーシュなど多くの伝記を手がけた。第一次大戦から反戦運動を展開するが、ナチの台頭により英国に亡命、その後米国を経てブラジルに渡るも戦局を悲観、本作脱稿後の42年に妻と服毒自殺した。
主演のオリバー・マスッチは「帰ってきたヒトラー」で一躍名を知られ、最近はハリウッドにも進出するドイツの名優。今回は回想場面と現実のシーンを演じるため体重を大幅増減させる必要があり、2つの撮影の間にブランクを置いて調整したという。その成果は見事に表れている。
さらには冷血なナチ将校とチェスの世界王者、2つの時制で共にヨーゼフの敵となる人物を一人二役で演じたアルブレヒト・シュッフを忘れてはならない。容貌も人格も全く異なる役を完璧に演じ分けており、言われなければ気付かないほどの変わり身ぶりだ。
20世紀中盤までは独仏、大戦後はソ連選手が王座を独占してきたチェスの世界。将棋と違って引き分けが多く、それを戦略として使う奥深さを持つ。そう言った背景もあり、これまでもトビー・マグワイアの「完全なるチェックメイト」やNetflixドラマ「クイーンズ・ギャンビット」など、チェスを題材にした映画は東西冷戦や国際情勢を絡めて描かれることが多い。
映画は原作を大胆に翻案してナチものの体裁を取りつつ、「同一性」によって自由を奪われることに命がけで抵抗した欧州人ツヴァイクの矜持が色濃く反映され、脚本は絶妙な冴えを見せる。一体ヨーゼフの幸福とは何か。まさに足元をすくわれるラストが待っている。
(C)2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK
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