【「るろうに剣心 最終章 The Beginning」評論】全て“ここ”から始まった――痛烈な哀しみを伴う珠玉のラブストーリー
2021年6月5日 09:00

「るろうに剣心」シリーズが10年に及ぶ“旅路”を終え、いよいよ完結する。「最終章」として2部作で描かれたのは、原作ファンのあいだでは人気の高い「人誅編」と「追憶編」だ。
2014年に公開された「るろうに剣心 京都大火編」と「るろうに剣心 伝説の最期編」は、原作で圧倒的な支持を集めた「京都編」を2部作で描いている。一方、「最終章」では、剣心の頬にある十字傷の謎をめぐり幕末(「The Beginning」)と明治(「The Final」)という異なる時代を使って紐解いていく。
「るろうに剣心 最終章 The Beginning」では、十字傷の謎とともに剣心が「不殺」の誓いを立てるに至るまでの物語も紡いでいく。それゆえ、倒幕派を率いる長州藩の桂小五郎(高橋一生)のもとで人斬り抜刀斎として恐れられた時代の剣心が暗躍し、本編冒頭から血しぶきが飛び散る。
ある夜、質の悪い男たちに絡まれた女を助けた後、何者かに襲われた剣心は返り討ちにするが、礼を言おうと追ってきた女に一部始終を見られてしまったため、そばに置くことにする。この女こそ、後に剣心の妻となる雪代巴(有村架純)。巴は、日常的に人を殺めることで心をなくしそうになっていた剣心に対し、「平和のための戦いなど本当にあるのか」と咎める一方で、ひとりの人間として包み込むような優しさでいたわる。
新選組による池田屋襲撃、禁門の変での敗北により身を隠した桂にならい、剣心は巴を伴い郊外の農村に潜み、穏やかな暮らしをおくることで初めて幸せとは何かを知る。この一連の流れのなかで、佐藤と有村の揺らめく目の動きが見事のひと言。これほどまでに感情の機微を瞳のみで雄弁に物語れるのか――。
「るろうに剣心」の映画化が発表された10年前の6月を思い出してほしい。実写化など無理だという反応が多数を占め、佐藤も期待の若手のひとりとして突出した存在ではなかった。それが堂々たる座長へと成長を遂げ、トラウマ級のアクションも他キャストを牽引するほどの姿勢で体得していった。いち映画ファンとして、同時代にこの光景を目撃することができた僥倖を喜ぶべきではないだろうか。
剣心が巴を斬殺するに至った詳細は、ぜひ本編をご覧いただきたい。だが、十字傷の謎の真相を知ってしまうと、剣心が常人では耐えられそうにない痛みを、その後ずっと抱えながら生きてきたという点に思い至る。多くは語らないが、巴の指が剣心の頬に触れる瞬間、言葉にならない“声なき声”が観る者の胸のうちに届き、今作が哀切なラブストーリーであることに気づかされる。
賛否あるだろうが、「The Final」から「The Beginning」という公開順は、大友啓史監督からファンへの実に粋な贈り物と解釈することができる。“始まり”と銘打たれた完結編を鑑賞し終えると、剣心の背負ってきた哀しみをなぞりながら、どうにも第1作から観直さずにはいられない衝動に駆られるのである。
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