【「BLUE ブルー」評論】敗れ去った者の背中は、時として美しい 吉田恵輔監督が紡いだボクサーたちへの賛歌
2021年4月4日 19:00

ボクシング映画というジャンルに相対する時、無意識のうちに、こんなことを期待していたのかもしれない。それは高揚感を誘う「再起」。リングへと沈んだ者たちが、血反吐を吐きながらも這い上がる。その姿は確かに美しく、心に響くものだ。吉田恵輔監督が描出した拳闘の世界は、その期待には安易に応じず、挑戦者たちの人生を泥臭く肯定していく。
本作で描かれるのは、挑戦者を象徴する“ブルーコーナー”で戦い続ける者たちの生きざまだ。誰よりも努力し情熱を注ぐも、負け続ける瓜田信人(松山ケンイチ)、抜群の才能とセンスを持つ小川一樹(東出昌大)、恋心をきっかけに“ボクシング風”を会得しようとする楢崎剛(柄本時生)、そして彼らを見つめるヒロインの天野千佳(木村文乃)。吉田監督が構想8年をかけて完成させた物語は、観客にシビアな現実を突きつける。強者は勝つ、弱者は負ける――そこには、神の心付けのような“奇跡”は生じない。
吉田監督は、中学生の頃から現在に至るまで、30年近くもボクシングを続けている。そのキャリアを持って、本作では殺陣指導も兼任。一朝一夕では身に付くことのない視点によって「本物の試合」を完成させた。無論、俳優陣の後押しもあってこその結実だろう。2年という歳月をかけ“佇まい”を本物に近づけた松山、“代償”に揺れるさまを見事に体現した東出、吉田作品ならではのコミカルさも引き受けつつ“ボクシングに魅了される”という過程を示した柄本の存在抜きにしては、成し得なかったはずだ。
「何箇所もジムを渡り歩き、沢山のボクサーと出会い、見送っていきました。そんな自分だからこそ描ける、名もなきボクサー達に花束を渡すような作品」とコメントを寄せていた吉田監督。30年という歳月の中、幾度となく訪れたであろう「見送り」の機会。そこには「再起」のようなドラマティックさは少なかったのかもしれない。だが、振り返りもせず敗れ去った者の背中は、時として美しく、他者に影響を与える。劇中で描く“思いの伝播”もさることながら、吉田監督が「BLUE ブルー」を世に放ったという事実も例に漏れず、ということだ。
だからこそ、ラストショットが胸を打つ。吉田監督は、完成報告会の場で「僕のラブレターが詰まっている映画」と言い表してみせた。その思いは、瓜田が自然にとった“ある動作”に集約されているかのようだ。勝者も敗者も、リングに留まった者も、そして去った者も「ボクシングと向き合っていた」という事実は変わらない。ひとりでも多くの“見送られた者たち”に、この結末を目撃してほしい――鑑賞後、心からそう願っていた。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
配信を待つな!劇場で観ないと後悔する
【人間の脳をハッキング“レベルの違う”究極音響体感】戦場に放り込まれたと錯覚する没頭がすごすぎた
提供:ハピネットファントム・スタジオ
感情ぐっちゃぐちゃになる超オススメ作!
【イカれた映画を紹介するぜ】些細なことで人生詰んだ…どうにかなるほどの強刺激!
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
なんだこの“めちゃくちゃ面白そう”な映画は…!?
【妻を殺したのは…自分…?】あなたにも起こり得る驚愕×ド迫力タイムリミットスリラー!
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
エグすんぎ…人の心はないんか…?
【とにかく早く語り合いたい】とにかく早く観て! そして早く話そうよ…!
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント