【「オン・ザ・ロック」評論】ソフィア・コッポラ監督が紡ぐ、少女たちの“その後”の物語、そして新しい冒険
2020年10月19日 16:00

結婚、出産、育児……様々な決断を下し、人生のターニングポイントを潜り抜けた先には、何が待ち受けているのか。妻、母親など貼り付けられたラベルは増えていくけれど、自分はどんどん透明になっていくようで……。現代ニューヨークを生きるローラ(ラシダ・ジョーンズ)の中に、誰もが自分自身の悩みや行きづまりと似通ったものを見出すことができるだろう。
ソフィア・コッポラ監督が、気鋭の映画スタジオ・A24、Apple Original Filmsとタッグを組み、自伝的要素をふんだんに織り交ぜた都会派コメディ。軽快な音楽にのせ、ローラのストレスに満ちた日常が映し出されていく。そして中盤で華麗に登場するのが、稀代のプレイボーイであるローラの父・フェリックスを演じたビル・マーレイ。「ロスト・イン・トランスレーション」など、コッポラ監督と何度もタッグを組んできたマーレイが、とにかくチャーミングだ。顔が広く、誰とでもすぐに友達になり、ユニークな言葉で奇想天外な(しかし最高にワクワクする)提案を繰り出してくる。伸びやかな歌声まで披露する活躍ぶりだ。
ローラの夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)の浮気調査という名目で、親子がマンハッタンに繰り出す、目眩く夜のピクニックが楽しい。車の中で口笛を吹くジョーンズとマーレイが、本物の親子に見えてくるから不思議だ。尾行には目立ち過ぎる真っ赤なフィアットで、キャビアをのせたクラッカーを優雅にかじりながら、必死で双眼鏡をのぞいているふたりに笑いがこみ上げてくる。
夫が不在の誕生日を一緒に過ごし、心の穴を埋めてくれたのは父だった。やがて、一見愛情に溢れた親子の間に、あるわだかまりがあることが明らかになる。前時代的な父の価値観や過去の傷は、娘たちに「自分の髪型は自分で決める、自立した女性になりなさい」と教えるローラにとって、到底受け入れられるものではない。しかし、そんな父の異なる世界を完全に拒絶するわけではなく、愛情と尊敬をもって受容しながらも、ローラは自らの家族と“新しい冒険”に出る。一抹の寂しさを漂わせながらも爽やかに立ち去る父、そしてローラの左腕に宿る決意に、次の段階へと移行した親子関係が垣間見える。
ガーリーカルチャーをけん引し、「マリー・アントワネット」「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」など、閉鎖的な場所で「ここではないどこか」を夢想する少女たちを描いてきたコッポラ監督。出産や育児を経験し、映画作家としても成熟した彼女が、本作ではそんな少女たちの“その後”に思いを馳せる。ウエディングドレスのままプールに飛びこむように辿り着いた居場所で、かつて少女だったローラが、自ら道を切り開いていくさまを描いてみせた。
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