コラム:上質映画館 諸国漫遊記 - 第9回

2026年2月6日更新

上質映画館 諸国漫遊記

映画を愛する人にとって、テレビやネット動画もいいけれど、やはり映画は映画館で観るものだと考える方は多いだろう。本コラムでは全国の映画館の中から「これは」と思う上質なスクリーンを訪問し、その魅力をお伝えしたい。(取材・撮影・文/ツジキヨシ)


109シネマズHAT神戸/家族連れの映画鑑賞に最適な、黄金の中庸

「109シネマズHAT神戸」を訪問
「109シネマズHAT神戸」を訪問

▼家族連れで映画を観る。それにフィットする映画館とは?

映画を映画館に観に行くとき、人々は何を期待しているのだろうか。

様々な答えがあろうが、筆者は、「映画館でなければ体験できない」何かを体験したいがために行く。具体的には、大きなスクリーンに描かれる迫力の映像と、良好なサウンドシステムによって紡ぎ出される音響的感興の組合せによる日常感覚からの逸脱を求めて映画館に足を運ぶ。

映画は総合芸術と呼ばれるだけあって、脚本、演技、映像、音響、音楽、照明、衣装、構図、編集など様々な要素が絡み合う。その絡み合いの妙を大きなスクリーンと迫力のある音響で体験するために「映画館に行く」のである。だからこそ、本連載でこれまで紹介しているような技術指向が強く、極端に「クォリティ」の高さにこだわった映画館に興味があり、積極的に選ぶ。

ブルメールHAT神戸へは、公共交通機関では、JR神戸線「灘駅」徒歩10分、阪神電車本線「岩屋駅」徒歩8分、あるいは神戸市営バス「人と防災未来センター」前下車
ブルメールHAT神戸へは、公共交通機関では、JR神戸線「灘駅」徒歩10分、阪神電車本線「岩屋駅」徒歩8分、あるいは神戸市営バス「人と防災未来センター」前下車

ただ「クォリティ」の高さにこだわった映画館は敷居が高いのは事実である。ドルビーシネマやIMAX、映画館独自の高品位設備などを擁したスクリーンは、そもそも数が少なく、希望の日時にチケットを購入するのに難儀することもあり、鑑賞料金も高い。クォリティを意識しながら映画を過度に集中しながら観るから、鑑賞後、疲れ果ててしまうことも多い。自ら望んでお金と時間をかけて、ヘトヘトになるような体験をわざわざするなんて、フツーに考えれば相当ヘンである。強い興味のある映画なら、そうすべき価値があるはずだと自らに言い聞かせて、そうした面倒も厭わないが、残念ながら全ての映画に対して、そんな思い入れは持てない。たまには気楽に映画を観たいと思うこともある。

同じレベルで映画鑑賞にこだわっている家族や友人もいないせいもあって、誰かとそういう「クォリティ指向」の映画館に一緒に行こう、とは思わない。無理に好みを押し付けることになりかねないし、家族知人だって、そんなことはされたくはないだろう。だからそうした「クォリティ指向」の映画館には、一人で行くと決めている。

でもこうも思うのである。「もっと気軽に映画を楽しめたらいいのに」と。

また、筆者には子どもがいないので、子ども連れで映画を見に行くことはなく、いわゆる「家族向け映画」もほとんど観ないが、小さな子どもたちがいる友人知人は家族で映画によく出かけていて、それが重要なイベントであることもよく理解できる。

確かに筆者にも、子どものころ、親に連れられて映画館に映画を観に行った。それが原体験となり、いまのように映画に対して強いこだわりを抱くようになったとも思う。だからこそ「家族向け映画」の意味や価値は十分にわかるし、家族連れで映画を観る際にぴったりとフィットする映画館はどういうものなのかも、時折考えることもある。

劇場入口。入口自体はこぢんまりしているように見えるが、10スクリーン、合計1,795席を擁する、かなり大規模なシネマコンプレックスだ
劇場入口。入口自体はこぢんまりしているように見えるが、10スクリーン、合計1,795席を擁する、かなり大規模なシネマコンプレックスだ

▼家族連れ向けにふさわしい映画館の条件を考える

今回ご紹介する「109シネマズHAT神戸」は、そうした家族連れで映画を楽しむために最適なシネコンだと思った。

家族連れ向けにふさわしい映画館の条件とはなんだろうか。つらつらと考えると以下のようなことが挙げられよう。
●周辺環境も含めて安全性が高く安心感があること
●トイレや休憩、飲食スペースなどの周辺機能の充実
●スタッフと運営方針に表れる「家族歓迎」の姿勢
●映画館以外の目的があること
●自家用車でのアクセスが容易いこと
●子どもが安心して楽しめる鑑賞環境が整備されていること

つまり家族連れ向けの映画館は、単に映画を上映する設備が整っているだけでは不十分なのだと考える。立地そのものが来館行動に大きく影響することを考慮すべきなのではあるまいか。子どもの年齢や同行者の体力、日常の買い物・外出動線との重なりなどを踏まえると、映画館がどこにあるかは「鑑賞体験」の一部と言っても過言ではないからだ。

ブルメールHAT神戸は、1階はエディオン、西松屋、ココカラファイン、2階は109シネマズHAT神戸のほか、専門店や飲食店などが出店している。
ブルメールHAT神戸は、1階はエディオン、西松屋、ココカラファイン、2階は109シネマズHAT神戸のほか、専門店や飲食店などが出店している。

今回紹介する「109シネマズHAT神戸」を例にとって考えてみよう。そこは神戸市中央区に位置する「ブルメールHAT神戸」という大型商業施設の2階にあるシネマコンプレックスだ。ブルメールHAT神戸は、兵庫県神戸市中央区の臨海部・HAT神戸地区にある地域密着型のショッピングセンターである。阪神・淡路大震災後の復興と都市再生を目的に整備されたHAT神戸エリアの中核商業施設として、2001年に開業した。

施設名の「ブルメール(BLEU MER)」はフランス語で「青い海」を意味し、海に近い立地と開放感のある街づくりの理念を反映しているそうだ。建物は低層かつ横長の構成で、屋外通路や広場を多く取り入れ、ベビーカーや子ども連れでも移動しやすい設計となっている点が特徴である。

館内には、スーパーマーケット、ドラッグストア、衣料品店、飲食店、生活雑貨店など、日常生活に直結したテナントが中心に揃えられている。いわゆる大型モールというよりも、周辺住民の「普段使い」を意識した構成であり、HAT神戸や隣接する住宅地に暮らすファミリー層の生活インフラとして機能している施設だ。

現地を訪れて感じたのは、ブルメールHAT神戸は、派手さや観光性よりも、「安全で、わかりやすく、使いやすい」ことを重視した商業施設として作られている点だ。震災復興を背景に誕生した、神戸という街の中で、日常を支える拠点として、派手さはないかもしれないが、安定した役割を果たし続けている施設という印象だったのだ。

コンセッション(売店)も充実。定番のポップコーンのほか、チュリトスやフライドポテト、ホットドッグ、ピザなどが用意されている
コンセッション(売店)も充実。定番のポップコーンのほか、チュリトスやフライドポテト、ホットドッグ、ピザなどが用意されている

話を家族連れ向けの映画館という論点に戻そう。家族連れにとって映画鑑賞は、単独の外出目的になりにくい。つまり買い物、食事、遊びなど多目的な行動とシームレスに結びつく映画館の立地であることが、来館の敷居を格段に下げることにつながる。

全国に数多くある商業施設に映画館が併設されているという事実は、たとえば「映画の前後に食事をする」「上映時間まで買い物・散策をする」「雨天でも屋内で時間を過ごす」といった行動パターンを踏まえての立地であると容易に想像できよう。子ども連れで行動する際には、待ち時間や子どものテンションの波をも受け止める余白が重要であり、シネコンの商業施設内立地はその点で極めて高い利便性を提供している格好だ。

また、家族連れの、シネコンのみならず商業施設への来館においては、自家用車での移動が重要な選択肢となる。ブルメールHAT神戸には約1,000台を収容する屋内駐車場が併設されており、映画鑑賞と連動した駐車サービスが当然ながら用意されている。駐車場が建物内、あるいは同一敷地内にあることは、家族連れ向け映画館の立地として極めて合理的な条件である。屋内駐車場であれば、雨や暑さ・寒さといった気候要因によるストレスも軽減されるに違いない。こうしたスムーズな動線の整備と快適性は、小さな子どもを抱える家族連れにとっては、映画鑑賞体験そのものに影響する重要な条件である。

シアター10は「4DX」仕様。テーマパークのアトラクションのように座席が動きつつ、風や水などの特殊効果を組み合わせて、映画を体験できる仕組みだ
シアター10は「4DX」仕様。テーマパークのアトラクションのように座席が動きつつ、風や水などの特殊効果を組み合わせて、映画を体験できる仕組みだ

子どもの荷物やベビーカーを抱えた状態で公共交通機関を乗り継ぐことは、保護者にとって心理的・物理的負担が大きい。片付け・準備・車への積み込みといった一連の動作のしやすさは、「映画に行く」「映画から帰る」という体験全体に直結する。加えて、近年数多く作られている、端から端まで歩いて1時間以上もかかりそうな巨大なショッピングモールとは違って、ブルメール神戸は、大きいとはいえるが「呆れるほど広くもない」、そんな適切なサイズ感の商業施設という点もポイントに挙げられると思った。

入場を済ませた通路に「ズートピア2」の巨大なPOPがお出迎え。雰囲気を盛り上げる
入場を済ませた通路に「ズートピア2」の巨大なPOPがお出迎え。雰囲気を盛り上げる

▼家族連れの日常生活の一部に、映画鑑賞をどう組み込むか

実際に筆者が109シネマズHAT神戸を訪ねたのは小雨がちらつく日曜日の早朝、ブルメール神戸の商業施設自体の営業が始まる直前、9時半ごろだったが、多くの家族連れ、子ども連れが既に劇場のエントランスに溢れていた。映画を楽しみにしてワクワクする気分がホワイエ内に満ちていた。

109シネマズHAT神戸は商業施設の一角にあるがゆえに、周辺には日常生活のニーズを満たすショップやサービスが集積している。映画鑑賞に訪れた家族が、前後の時間帯に別の用事を済ませられるということは、映画館が「特別な日だけに訪れる場所」ではなく、日常生活の延長線上に位置づけられていることを意味する。ショッピング、カフェ、家族での食事、通院、買い物、学校行事後の立ち寄りなど、家族の行動には多様な動機が重なっている。映画鑑賞を生活動線に組み込める立地は、映画館の利用頻度を高めるだけでなく、親子双方の心理的ハードルを下げる効果を持つ。

前方、スクリーン側から座席エリアを撮影した。後方に行くにしたがって傾斜がついているため非常に鑑賞しやすい印象だ。
前方、スクリーン側から座席エリアを撮影した。後方に行くにしたがって傾斜がついているため非常に鑑賞しやすい印象だ。

このように、「映画館が日常圏の中にあること」は、単なるアクセスの良さにとどまらず、家族の時間の組み立て方そのものを変える条件である。神戸市中央区という立地環境は、元町や三宮などの歓楽街や繁華街とは異なり、住宅・商業・公共空間がバランスよく混在している地域である。この環境は、家族連れにとって心理的な安心感につながる。特に夕方から夜間にかけての来館後の帰路において、治安、人の流れ、街の雰囲気が不安を喚起しにくいことは、家族が映画館を選択する際の重要な条件となる。

また商業施設内立地であるため、夜間でも周辺に一定の人の活動があり、その点も安心材料といえそうだ。周囲が閑散としたロケーションは、子ども連れにとって無意識の心理的負担を生じさせやすいが、109シネマズHAT神戸はその点で明確な立地的アドバンテージを有しているかもしれない。

以上のように、109シネマズHAT神戸は、商業施設内立地、充実した駐車環境、生活動線との重なり、複数の交通手段への対応、そして安心感のある周辺環境という観点から、「家族向け映画館としての立地条件」を高い水準で満たしている実例と考えられる。同館は、単に映画を上映する場所にとどまらず、家族の生活動線に自然に組み込まれ、来館・滞在・帰路という鑑賞体験のすべての段階において負担を軽減する構造を備えている。その点において、109シネマズHAT神戸は立地面から見た優良な家族連れ向け映画館のモデルケースのひとつと位置づけることもできよう。

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▼109シネマズHAT神戸のシアター8で、「ズートピア2」を体験

2025年12月中旬の日曜日、109シネマズHAT神戸のシアター8で、「ズートピア2」(吹替)を観た。シアター8は、一般席364+エグゼクティブ席36+車椅子スペース4を誇る大型スクリーン。スコープアスペクトだと思われるワイドスクリーンは、目測で左右幅12m程度のビッグサイズ。天井高も最も高い部分で、おそらく12~13mといったところか。スクリーンから座席までの距離をしっかりと確保しているせいもあって、かなり広々とした印象を受けた。

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座席は後方に行くにしたがって徐々に高くなるように配置されていて、スクリーンが前席と重なることも少なく見やすそう。しかしその傾斜は比較的緩やかで、映画上映中に場外に出たくなっても階段で足を滑らす心配は少なそうだ。今回はH-20という、エグゼクティブシートの直前の座席、前から8列目のほぼ真ん中、シアター内のほぼ中央席を確保した。

シアター内に配置されているサラウンドスピーカーは、アメリカJBL製の2ウェイモデルの定番「83XX」シリーズのようだ。シアターの左右に6本ずつ、後方にはプロジェクターの映写窓を挟んで左右4本ずつ、合計20本が配置されていた。劇場のホームページや劇場内には具体的な記述はないが、おそらく7.1chの音響システムだと思われる。

スクリーンも非常に大きく、スクリーンのアスペクト(縦横比)は、かなり横長で、おそらくスコープ(2.35:1)だろう
スクリーンも非常に大きく、スクリーンのアスペクト(縦横比)は、かなり横長で、おそらくスコープ(2.35:1)だろう

▼誰もがいつでも安心して映画を楽しめるという「スタンダードさ」を追求

ズートピア2」は、ディズニーの大ヒット・アニメーション作品として、9年ぶりに公開された待望の続編ということもあって、日曜日の朝イチの回でもほぼ満席。前述した通り、客席には家族連れや若い女性客、カップルなどで鈴なりだった。

映画が始まると、ディズニー・アニメーションらしいプロフェッショナルな仕上がりが印象的だ。ユーモアとウィットを過剰なほど効かせながらも、ウェルメイドなストーリー展開が素晴らしい。前作同様、可愛らしい動物たちの世界の冒険を迫力とともに追うだけでなく、現実の人間世界のあり様をモチーフとしたと思しき社会的な要素を巧みに盛り込み、名作映画のオマージュを絡めつつ、エンターテインメントとしての王道を極める。

シアター後方の壁面には、サラウンドスピーカーがぎっしりと埋め尽くされている
シアター後方の壁面には、サラウンドスピーカーがぎっしりと埋め尽くされている

109シネマズHAT神戸のシアター8のスクリーンには、CGで鮮やかに描かれたズートピアの世界が明るく広がる。映像面では、警察官となった、主人公のウサギのジュディ・ホップスと、キツネのニック・ワイルドの、カラフルで緻密な毛並みの描写が素晴らしい。自由自在のカメラワークと視点誘導のテクニック、それにリンクするような音響効果の合せ技にも感服した。「トイ・ストーリー」が製作されてから約30年。フルCGアニメーションの表現力もここまで来たか、という印象だ。細密かつ丹念なライティングによって描かれた、物体のマチエール(質感/感触)が目をみはる。今回は吹替えバージョンだったこともあり、字幕を追わずに映像に集中できたのも良かったのかもしれない。

音響については、吹替え音声だったせいかもしれないが、サラウンド感や重低音を思い切り効かせたような印象はあまりなかったが、声や効果音、音楽が非常に聴きやすい。音量レベルは適切で、「うるささ」や「耳に刺さる」ことは全くなかった。子どもにとっても迫力はありながらも「音が大き過ぎない」ようにしっかりと調整しているのだと想像した。ああ、これなら小さい子どもと観ても安心なのだろうな、という絶妙さなのである。

左右ならびに後方に壁面に配置されているサラウンドスピーカー。米国JBLプロフェッショナル製の2ウェイモデルを使用している
左右ならびに後方に壁面に配置されているサラウンドスピーカー。米国JBLプロフェッショナル製の2ウェイモデルを使用している

前作は確かブルーレイで鑑賞したのだが、こうした作品は劇場という同じ空間を共有しながら大スクリーンで見知らぬ同好の人々と感激を共にしながら、観るべきだったなと思いを馳せた。多くの家族連れの方々と「ズートピア2」という作品を109シネマズHAT神戸で体験して、そんな考えにも至った。

結論をいえば、109シネマズHAT神戸は、筆者を含む映画ジャンキーともいうべき「クォリティ至上主義者」たちをターゲットにはしてはおらず、誰もがいつでも安心して映画を楽しめる、いい意味での「スタンダード」に徹している。それは決して凡庸ではなく、「黄金の中庸」というべき「上質さ」を備えた真っ当なバランス感覚に満ちたシネコンの姿がそこにあった。

■採点
映像7.5/音声7.5/座席7.5/総合8.0
家族連れに最適な心地よさが素晴らしい

今回の鑑賞料金(※料金は、2025年12月取材時点での価格です)
2,000円

109シネマズHAT神戸
兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通2-2-2 ブルメールHAT神戸 2F

電話番号 0570-011-109(ナビダイヤル)

参考サイト
109シネマズHAT神戸
https://109cinemas.net/hatkobe/

劇場案内
https://109cinemas.net/hatkobe/establishment.html

ブルメールHAT神戸
https://blumer.jp/

筆者紹介

ツジキヨシのコラム

ツジキヨシ。1969年千葉生まれ。オーディオ専門誌の編集部を経て、オーディオビジュアル専門誌の編集に携わって四半世紀。大型スピーカーと100インチスクリーンによるドルビーアトモス対応サラウンドシステムを構築。日夜、映画と音楽に込められたクリエイターの想いを、いかに再生していくか、試行錯誤中。

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