「山椒は小粒でも」バレリーナ The World of John Wick 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
山椒は小粒でも
からだの節々がずきずきするような、見ているだけで筋肉痛になりそうな、ジョンウィックらしいアクションが全編に炸裂した。スクリーン側にカメラを設置しておけば逐一歪む表情によって「ジョンウィック鑑賞中」というリアクション動画ができそうな絶え間ない格闘。
常道として、女がアクションヒロインをやることは、アクションにエロス資産を投入することだが、バレリーナはその図式に阿って(おもねって)おらず、アナデアルマスはその綺麗な顔立ちとは裏腹にイガイガの装甲で無軌道に転げ回っているようだった。山椒は小粒でもぴりりとからいと言うが、ぴりりなんてもんじゃなかった。
アンダーワールドにおける夜や黒の存在感と、ジョンマクレーン(ダイハードにおけるブルースウィリスの役名)の台詞をぜんぶ覚えているというレンワイズマン監督はジョンウィックシリーズとの親和性が高かった。
得物(武器)がなんであろうと映画的ダイナミズムのために打撃と取っ組み合いへもっていき、手榴弾を銃のように撃ち、銃をナイフのように操り、ナイフを拳のように殴り、得物を放り出して取っ組み合い、得物を掴んで撃ち合い、通り過ぎた道程に死屍が累々と連なっていく様は、単身でハルシュタットを無人にしそうな勢いだった。
リアルな徒手空拳と若干抵抗もする書き割りのようなやられ役。ジョンウィックは夜間のネオン下で格闘するイメージだが、今回は寒々しい雪化粧の町へ移動するも、熱いアクションでむしろ身体が火照った。
アルマスさんが敢闘賞および努力賞だった。スタント割合は解らないがさまざまな武具の扱いの手慣れた感じが堂に入っていた。そんなものは一朝一夕で成しえるものじゃない。毎日触って鍛錬しほんとにキキマラになろうとしたに違いなかった。
ところで映画プロモーションの来日舞台挨拶には、海外の映画キャスト・スタッフにとって知る由もない日本のタレントが登壇し花束を贈呈したり無理矢理な絡みをするのが定石である。その役に任じられたタレントに罪はないが、あれは見ていてヒヤヒヤするし嫌なものだ。
とりわけ来日プロモーションは通訳を介することでタイムラグが生じると同時に、通訳が和訳しているときに外タレがポカン化する現象をまぬがれず、全体がAwkwardな空気感に包まれるのが常だと思う。
アルマスさんとワイズマン監督の挨拶には金メダリストの女性柔道家が登壇したが、それに絡めて柔道着を着たアルマスさんもワイズマン監督も終始日本的なプロモーションの進行に迎合的だった。もちろん仕事なんだから大人対応するのは解るが、アルマスさんの態度には理知を感じたし、当たり前だが利口な人だった。
ちなみに2003年にソフィアコッポラ監督が外タレが日本で遭遇する風変わりな饗応についての映画をつくった。
日本人は欧米人をノリがいいとかユーモアのセンスがあると思っているが、ノリがいいから、ユーモアのセンスがあるから、だからといっていきなりトップギアに入れてくるわけではない。
ところがCMの撮影で来日したボブハリスは、出会った途端にトップギアに入れてくるCMディレクターやマシュー南やチャーリーやコールガールの対応に苦慮した挙げ句、異文化適応障害のようなメランコリーに陥ってしまう。たまたま同じパークハイアット東京にいて、夫に置き去りにされメランコリーになっていた若い人妻シャーロットと意気投合し、眠らない街東京を回遊する。男女間で友情が成立しうるのか解らないが少なくともこの映画にはあった。
ソフィアコッポラは要するにおまえら変だぞと言っているのだが今(2025年)なお日本の業界は2003年にロストイントランスレーションで描かれた通りだ。
たとえば、なぜ映画バレリーナのプロモーションに来て柔道着を着せられ赤いドレスを着た女性柔道家とカメラにおさまらなければならないのか。
なぜ日本は外タレにナオトインティライミの歌を聴くCロナウドのような困惑をもたらしてしまうのか。
それらの現実の出来事はボブハリスが遭った珍妙な饗応と、どこが違うというのか。
結局バレリーナ・ジャパンプレミア舞台挨拶動画も他の外国映画のプロモーション同様、たんにバカらしくてAwkwardなだけだった。それでも、ふたりは笑顔でそれに付き合っていたが、もしそこにノーマンリーダスがいたら常に学芸会の親側発表みたいなことをさせられるプロモーションに辟易して途中で逃げ出したかもしれない。
アルマスさん以外ではルスカ・ロマのディレクター役をアンジェリカヒューストンが演じていた。表向きは館主で、劇場では折しもタルコフスキーのアンドレイ・ルブリョフが上映中だった。
コンチネンタルホテルのコンシェルジュ役のランスレディックが突然死したのは2023年3月17日だそうだ。本作は2022年には撮影が始まっていたという。
他の出演者では福島リラがよかった。登場シーンはほんの僅かだが、荒みきって傷ついたぼろぼろの雰囲気でぐいっと引きつけられた。scene-stealerだったと思う。
映画はてんこ盛り。フライドザワークラウトにいたってはリックダルトンが霞むほどつくられるが全体として詰めすぎ盛りすぎな印象が残った。
ちなみにチョンジョンソ主演のネットフリックス映画でバレリーナという同じく女単人称の韓国ノワールのがあったので無関係だとは思うがちょっと既視感をおぼえた。
imdb6.9、RottenTomatoes76%と92%。
