コラム:若林ゆり 舞台.com - 第132回

2026年1月15日更新

若林ゆり 舞台.com
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それはたとえば、今回の脚本・訳詞を手がけている高橋知伽江が、ディズニーアニメーション映画「ノートルダムの鐘」のミュージカル版(劇団四季での日本初演時、海宝は外部からオーディションに参加し主役のカジモドに抜擢された)で訳詞をしたときのエピソードを最近聞いて、痛感した部分だという。

「この作品の中に『陽ざしの中へ』(映画版では『僕の願い』)という曲があって、最後に『陽ざしの中へ』と歌っています。これは英語では『One day, Out there』。『いつか外に出ることができたらな』という意味です。でもそのまま日本語にしたら、言葉数が入りきらない。試行錯誤して知伽江さんが『陽ざしの中へ』という言葉を考えられたということで、素晴らしいと思うのですが、海外のスタッフからは『Out thereはどこにあるんだ』と言われたと。そのとき、さまざまな言葉を尽くして思いを伝えた話をされていたんですが、そこですごく面白いなと思ったのは『陽ざしの中へ』という言葉の喚起するイメージ。外に出るという意味ももちろん込められていますが、カジモドが外に出るとき、それまでずっとひんやりとした石の中にいた彼が外に出て感じる温かさとか、目に刺す痛み、肌に感じる熱、希望、そういうものを一瞬で連想させる力があると思うんです。仮に日本語がもっと言葉数が入る言葉で『いつの日か外に出られたらな』という言葉をそのままはめたとしたら、『陽ざしの中へ』という言葉が包括する広大なイマジネーションは出ない。だから日本語のもつ情感は、英語とは違う強みになるということをすごく感じたんです。それは俳句でもそう。限られた語数の中で表現したいと思うからこそ、日本語が持つ曖昧さや余白が大きな武器になります。解釈の幅も広い。とても豊かで、だからこそ難しいな、とも思いますね」

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「イリュージョニスト」「この世界の片隅に」などなど、日本初演や日本オリジナルのミュージカルに数多く挑んできた海宝。初めての作品では正解を自分たち自身で探し、決めなければならず「生みの苦しみ」がつきものだ。だが、その過程を経たからこその充実感や達成感もひとしおだろう。今作中で海人が作る歌に「一つの言葉や歌が、 世界だって変えられる」というフレーズがある。そこは、このスタッフやキャストが抱いている思いともリンクする。

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「すごく大きなテーマだなと思います。そしてそれを共有できる、演劇を愛しているキャストが揃ったな、という喜びを感じています。(一茶役の)岡宮来夢くんを始め、言われたことをやればいいだけという人はいない。『このときの心情はこうだから、この心理を表現するにはこれが必要なんじゃないか』という、志の高いディスカッションがつねに行われていますから」

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2025年は海宝にとって、ミュージカル「美女と野獣」のチップ役でデビューを飾ってから30周年という年だった。それを記念して行われたコンサート「ever」、そして海宝直人×オーケストラ「more」では、構成・演出にも挑戦。

「まだまだ勉強不足ですが、演出のようなこともできたらな、という興味はもつようになりました。やはり自分自身が思い描いたものや紡いだ言葉が作品に生かされるのは嬉しいものですし、何かをゼロから作るのは楽しい。でも自分にとってはそれ以上に『この人のこういうところが素敵だから、こういうふうに動いたら魅力的に映るんじゃないかな』という提案をして、結果、そこがお客様に評価してもらえたり、何か次につながっていったりする喜びをすごく感じたんです。それは大きな発見でした」

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また、海宝にとっては映画「ウィキッド ふたりの魔女」と「ウィキッド 永遠の約束」でフィエロ役の日本語吹き替えを担当したことも、大きな経験だった。

「僕はもともと超『ウィキッド』フリークなので、すごく嬉しかったです。オーディションを探してもらって挑みました。映画はとにかく圧倒されましたし、日本語吹き替えをしてから改めて、監督の並々ならぬ『ウィキッド』愛を痛感しています。1ファンとして単純に『本当にありがとうございます!』という感じですね(笑)。だってすごくないですか? フィエロに関してもそうですけど、エルファバもグリンダも、すごく理解して膨らませている。どこを膨らませるかというのも、すごく大事なセンスだと思うんです。 映画は『ふたりの魔女』だけで約2時間半ある作品で、舞台だったら、もうそれで終わっちゃう時間じゃないですか。それを映画にすることでどう語るか。舞台ではある意味、演劇だからこそ、こう切ってしまっても、飛んでしまっても、お客さんが繋いでいってくれるところはある。でも映像でリアルに描くとどうしても説明が足らないという部分がでてきますが、それをしっかりとキャッチして、ちゃんと膨らませているなと思うんです」

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さらに2026年には、ヒッチコック監督で映画化もされた原作のミュージカル版、「レベッカ」のマキシム役を山口祐一郎から引き継ぐことも発表された。

「いまは役者として、またひとつ大人になっていく段階。ミュージカルにももちろん、いろんな役柄に、ミュージカル以外でも、演じる以外でもいろんなことにチャレンジしたいですね。個人としても役者としてもいい経験を重ねて、いい年齢の重ね方ができたらな、と思っています」

ミュージカル「ISSA in Paris」は2026年30日まで東京・日生劇場で、2月7日〜15日に大阪・梅田芸術劇場メインホールで、2月21日〜25日に名古屋・御園座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.umegei.com/issa2026/)で確認できる。

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筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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