コラム:若林ゆり 舞台.com - 第132回

2026年1月15日更新

若林ゆり 舞台.com

モーリー・イェストンの日本文化愛あふれる新作ミュージカル「ISSA in Paris」で、海宝直人が痛感した日本語の力とは?

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日本が誇る俳句の代名詞とも言うべき小林一茶には、若き日に空白の10年間がある。「NINE」や「ファントム」などの作曲で知られるモーリー・イェストンが、一茶の俳句に感銘を受けたことからこの10年間に思いを馳せ、生み出されたのがミュージカル「ISSA in Paris」だ。「恋におちたシェイクスピア」や「真珠の首飾りの少女」などと同じように「作品誕生の裏側にはこんな出来事があったかも」と想像の翼を広げて作られた本作は、ダイナミックで繊細な異色作。江戸時代の江戸から長崎、フランス革命へと飛び込んでいく若き一茶に、現代日本に生きるミュージシャンの人生が交錯する。そのミュージシャン、海人役を演じる海宝直人に話を聞いた。

ISSA開幕前、前列左から演出の藤田俊太郎、海宝、岡宮来夢、後列左から潤花、豊原江理佳
ISSA開幕前、前列左から演出の藤田俊太郎、海宝、岡宮来夢、後列左から潤花、豊原江理佳

まずは現代日本での幕開け、ISSAというアーティスト名で活動する海人のナンバー「TALK TALK TOKYO」では、一茶の俳句が英訳され、ポップなメロディに乗って歌われる。イェストン作曲の従来のイメージとはかけ離れた、それでいて「外国人の日本趣味」的でもない趣向に驚く。

「この曲ひとつ取っても、どう表現するかを決めるまでに大変な道のりがありました。『どういう風に音楽と俳句を絡ませ、表現していくか』に関してすごくディスカッションを重ねて。演出家である藤田(俊太郎)さんのイメージを伝えたときに、音楽監督の森亮平君が即興で、うまく音楽や歌に入っていく流れをアドリブ的に見つけて作っていくということも多かった。最初は音楽をバックにひたすら俳句を詠んでいくパターンを試してみたり、 もしくは俳句をそのまま歌にしてみたり、英語で俳句を詠んでみたり。現段階では俳句を英語にしたパターンで「TALK TALK TOKYO」は進んでますが、いまだに稽古場で、いい着地点を探り続けています」

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作品の背景が、時代も場所も大きく変わっていくので、それに合わせた楽曲は幅広く、多彩だという。

「モーリーさんが書いていらっしゃったアウトラインを見せていただいたら、全編にわたって曲はもちろんセリフや登場人物のやりとりなど、かなり詳細に書き込まれているんです。脚本家ではないモーリーさんがここまでお書きになっているということは、すごく強い思いを持って作られたんだなと思いました。僕はなかでも『俳句』という曲がすごく好きなんです。美しいし、切ないし、でもちょっと前を向こうとする希望の色もあって。西洋的な指向のなかに、どこか日本人の琴線に触れる『わびさび』が感じられたりもして。場面の中でも好きなところですね」

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海宝演じる海人は、一茶の研究家だった母親との間に葛藤を抱えており、亡くなった母が書いた“パリでの一茶”像を通して変わっていく。

「この作品の特殊なところは、一茶も海人も、実際にはオブザーバー、観察者であるところなんです。通常の主人公であれば、その人自身が旅をして、旅の中で人との交流やドラマを経験して、成長を遂げながら物語が進みますよね。でもこの作品の主役である一茶と海人は、出来事を経験するというより、一歩引いて見ているキャラクター。一茶はフランス革命という大きな波に巻き込まれ、海人の場合は母親が描いた一茶の旅を、さらに外側から読んでいる。これはすごく特殊な構図だと思います。一茶の旅を見てきた海人が何を受け止めて、どう感じたのか。それをふまえて最後のシーンをどう演じるのか。お客様に海人の心の繊細な変化を歌の中に感じていただいて、それでお客様を惹きつけられるように作っていかなければ、と思っています」

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物語は時空を超え、海人は一茶に影響されていくが、タイムスリップとも違う。その部分の表現も、稽古を重ねながら試行錯誤を繰り返して作っている。

「いまとなっては『時空を超える』という言葉が果たして適切な表現なのかもわからないんですが、その部分に関してはこの稽古中にもずっと、いろんな説があったんですよ。最初はちょっとSFっぽいセリフがあったりもしてね。『100年後から来たんです』というような。でもいろいろ話し合う中で、方向性の修正があった。現段階では、基本的には母が書いた原稿を、海人が読んで、脳内で追体験をするという形になりました。なので、実在した一茶という人物との交流というよりは、母が一茶やテレーズたちに託した家族への、息子への思いを海人がどう読み解いていくのか。そこが見せ所です。海人は母が託した思いに共鳴していくんだけれど、それに触れたから万事OK、 許せたとか解決したではなくて。傷は抱えながらも自分の中で決着をつけて、一つのピリオドを打って先へと進んでいく。そういうドラマになっていくのではないかと思っています」

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 海宝自身もこの作品を通して俳句という芸術表現に向き合い、日本語について新たな発見を重ねている最中だ。

「改めて日本語の余白というか、奥行きのようなものを実感していますね。英語というのはすごくロジカルな言語だと思うんです。語順で意味が変わる。一方で日本語というのは、 語順を変えることで、意味は変わらないけど、情感が変わる。そこは日本語特有の素晴らしいところだなと。だから俳句も、五七五というごく限られた語数の中に、情感というものを込める、そしてそれが映像化するように広がり、響く。日本語の底力と魅力に気づかされますね。いままで輸入物のミュージカルやお芝居をやってきて、日本語の難しさを感じていたんですよ。欧米の言語と比べて一音に入る言葉が少ないから不利だなと。でも今回、『なるほど、日本語で歌うということは、武器にもなっているんだな』と感じています」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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