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第98回アカデミー賞の受賞予想 小西未来さんが主要6部門を考察

2026年3月12日 09:00

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映画ジャーナリスト・小西未来さんの予想を紹介
映画ジャーナリスト・小西未来さんの予想を紹介
Photo by Adam Taylor/Disney General Entertainment Content via Getty Images

第98回アカデミー賞の授賞式が3月15日(現地時間)に米ハリウッドのドルビー・シアターで行われます。昨年は、前哨戦で圧倒的な強さを見せていた「エミリア・ペレス」を抜き差し、ショーン・ベイカー監督の「ANORA アノーラ」がオスカーに輝きました。今年は、メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされている「国宝」にも注目が集まりますが、気になる主要部門はどのような展開を見せるのでしょうか……。映画.comでは、3人の映画ジャーナリストに主要6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)の受賞を予想してもらいました。今回は映画ジャーナリスト・小西未来さんの予想をご紹介します。



今年のアカデミー賞は、結果だけなら、すでに終わっていると思う。

ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ワン・バトル・アフター・アナザー」は、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞(BAFTA)、全米監督組合(DGA)賞、全米制作者組合(PGA)賞と、主要な前哨戦をことごとく制してきた。2年前に「オッペンハイマー」が賞レースを席巻したのと同じ構図だ。よほどのことがない限り、作品賞と監督賞はこの作品とアンダーソンで決まるだろう。

では対抗馬はどうか。ライアン・クーグラーの「罪人たち」は、アカデミー賞史上最多となる16部門ノミネートという快挙を成し遂げた。「タイタニック」や「ラ・ラ・ランド」の14部門を超える歴史的な数字だ。ところが、この勢いが作品賞に直結するかというと、そう単純ではない。バンパイア・スリラーというジャンル映画は、アカデミー会員の保守的な感性とは相性が悪い。しかも「ワン・バトル・アフター・アナザー」と同じワーナー作品であることも、票を分散させる要因になりそうだ。

一方、主演男優賞は今年いちばんドラマチックなレースだった。「マーティ・シュプリーム 世界をつかめ」のティモシー・シャラメが、ゴールデングローブ賞と各州の批評家協会賞を制して独走態勢に入っていた。ところが、キャンペーンの過程で風向きが変わる。シャネルの広告にレッドカーペット、トークショーにパパラッチと、あらゆる場所に顔を出し続けたことが裏目に出た。「もうお腹いっぱい」という空気が業界内に広がり、アクター賞(旧SAG賞)で「罪人たち」のマイケル・B・ジョーダンに敗北。アクター賞はオスカーの最終投票期間中に発表されたから、タイミングとしてはこれ以上ないインパクトだった。ジョーダンの一人二役の離れ業と、クーグラーとの5度目のタッグが生んだ存在感。僅差にはなるだろうが、最終的にはジョーダンが逃げ切るのではないかと思う。

主演女優賞は「ハムネット」のジェシー・バックリーが盤石。ゴールデングローブ、BAFTA、アクター賞(旧SAG賞)と主要前哨戦を完全制覇しており、ここに波乱はなさそうだ。助演男優賞も「ワン・バトル・アフター・アナザー」のショーン・ペンが堅い。唯一読めないのは助演女優賞だが、エイミー・マディガンがわずかにリードしていると見る。

ここまで読んで「退屈な授賞式になりそうだ」と思った方もいるかもしれない。たしかに、結果だけ追えばそうだ。でも、今年のアカデミー賞の真のサプライズは、封筒の中ではなく壇上のマイクの前で起きる気がしている。

思い出すのは、2003年の第75回アカデミー賞だ。米軍がバグダッドに最初の爆弾を落としたわずか4日後のことだ。ドキュメンタリー賞を受賞したマイケル・ムーアは、壇上でブッシュ大統領に向かって「恥を知れ(Shame on you)」と叫んだ。会場にはブーイングが響き、のちに殺害予告まで届いた。それでも、あの瞬間はアカデミー賞の歴史に深く刻まれている。

今年の状況は、不気味なほどあの夜と重なる。トランプ政権による移民の大規模な取り締まりやジャーナリストの拘束、そして2月末に始まったイランへの軍事攻撃。2月のグラミー賞ではビリー・アイリッシュが「Fuck ICE」と叫び、バッド・バニーが「ICE out」と声を上げた。もっとも、映画界はトランプ政権一期目のころと比べてもずっと口をつぐんできた。昨年の授賞式でトランプの名前を口にした受賞者はほとんどいない。報復を恐れた自主規制が働いていたのだろう。けれど、空爆が続き、移民への締め付けが日ごとに強まるなかで、その沈黙も限界に近づいている気がする。

だからこそ、ショーン・ペンの助演男優賞には特別な意味がある。劇中でペンが演じたのは、国境の移民収容施設を統括する軍人だ。差別的で冷酷な、まさに「取り締まる側」の人間である。そして現実のペンは、トランプを「人類の敵」と呼び、ハイチでの人道支援でも知られる、ハリウッドきっての行動派の俳優だ。そんな彼が壇上でトランプ政権によって虐げられた人々を養護する発言をしたら、ムーアの「恥を知れ」以来の、オスカー史に刻まれる夜になるかもしれない。

今年のアカデミー賞の本当の見どころは、受賞者の名前ではない。彼らが何を語るかだと思う。

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