ベルイマン、「オオカミの家」、村上春樹からの影響も 愛の複雑さ描くドミニカ共和国の美しいアニメ「オリビアと雲」監督インタビュー
2026年1月24日 09:00

カリブ海の島国ドミニカ共和国で製作され、世界各国の映画祭で数々の賞に輝いたアニメーション映画「オリビアと雲」が、1月24日公開を迎える。トーマス・ピカルド=エスピラット監督のインタビューが公開された。
2組の男女をめぐって織り成される美しい夢と怖い夢が繰り返されるような物語を、色鮮やかなグラフィック、ナイーブ絵画のような素朴なタッチ、ストップモーションアニメ、加工した実写映像など多彩なアニメーションのスタイルで表現し、愛の複雑さをオリジナリティ豊かに描き出す。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cineそれらのアイデアの中には、完成形のシナリオになっていたものもありますし、ざっくりした構想程度のものもありました。時間が経つうちに、それらが全て同じ物語を語っていることに気づいたので、アイデア同士の接点を探し、どうやったら結びつけられるかを考えました。そうしているうちに、これらの物語をひとつにつなげたら、一本の長編映画になるだろうと思ったのです。
そういうアイデアは、僕自身の世界に対する反応から来ています。僕はいつも現実世界を見ながら「この出来事が一風変わった形、シュールな形で起こったら面白いのに」と妄想することがあります。「オリビアと雲」はそういう瞬間でいっぱいです。要するに、現実からインスピレーションを得ているけれど、魔術的に想像しなおされているのです。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cine主人公オリビアの造型が生まれた最初のきっかけは、2006年、僕が学生だった頃に見た光景でした。ピアノのあるレストランに友人たちと行ったんです。中にはピアノが弾ける友人もいました。友人の一人は年上の恋人と付き合っていて、よく喧嘩していました。彼女は僕より数分先に店に着いたのですが、そこで恋人が別の女性と一緒にいるのを見てしまったんです。その後、彼女は走り出し、レストランに向かって歩いていた僕の横を駆け抜けていきました。振り返って彼女を見たとき、「オリビアと雲」の中でオリビアが山を背に走るシーンのイメージが見えました。彼女の姿からそのイメージを抽出したんです。そのイメージが頭にあったので、彼女をモデルとして、オリビアの外見的な要素を作り、そこに徐々に他のいろんな要素を混ぜていきました。
しばらくして、フリーランスのアニメーション・ディレクターとしてTED-Edで働くことになりました。いろんなスタイルを試す機会を与えてもらい、そこでは、とても複雑なテーマをシンプルなアニメーションで説明することを求められました。哲学的な問題も、医学の専門用語も、歴史や神話の話もありましたよ。「オリビアと雲」は、そんな僕のキャリアのいろんなステージの総まとめ的な作品だと感じています。自由なスタイルと分かりやすい物語を、バランスよく組み合わせているのです。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cineその途中で、試験的なアニメーションを作ります。それはたいてい、最終的に採用するアニメーションのスタイルとは全く違うものになるのですが、それでもとても助けになるのです。遊びのようなもので、ルールはありません。その方が物語をよりよく理解できるからです。それが終わったら、もっと分析的、体系的な段階に入ります。その段階で、この物語にはどんなタイプのアニメーションが最適なのかを理解し、作品のヴィジョンがはっきり見えてくるのです。要するに、頭に浮かんだイメージを実際のアニメーションへと翻訳していく過程です。
幸いにも脚本自体、さまざまな視点が出てくる構造になっていて、登場人物たちが同じ話を違ったふうに語る物語だったので、アニメーションも同じアプローチを取ればいいとひらめきました。多彩なスタイルをもったアニメーターを集めて、それぞれのスタイルで別々の視点のアニメーションを作ってもらう、ということです。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cineたとえばクラブで大勢が「バチャータ」を踊るシーンでは、6人のアニメーターに同時に作業してもらいました。大まかな構想から出発して自由に発想してもらえるように、彼らには互いの作業を見ないでほしいとお願いしました。そうやってできた素材を、僕は彫刻家のように組み立てたんです。
この映画にとって、音楽と声の演技はとても重要でした。サントドミンゴの混沌とした、騒がしい空気を表現したかったんです。作曲家のジェム・ムスルルオールはトルコ人で、以前から一緒に仕事をしています。彼にはリサーチのため、ドミニカ共和国に2週間滞在してもらいました。田舎を訪れて川の音を聞いたり、市場を歩いたりして、土地の音を吸収してもらいました。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cineまた、子どもの頃によく訪れた田舎の風景も入れたいと思っていました。映画に登場する市場は僕の家のすぐ近くで、とても混沌としています。そこを映画に入れたかったんです。それらの場面ではロトスコープを使ってアニメーションを重ねようと決めていました。しかも撮影したのは2021年末で、まだみんながマスクをしている時期だったので、この方法は余計にうってつけでした。マスク姿にアニメーションを被せることで、コロナ禍に撮られたのか分からないような、タイムレスな映像にできたのです。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cineチリの監督たちによるアニメーション映画「オオカミの家」にも影響を受けました。手描きや手作りの技法を多用していて、とても美しい作品です。他の分野では、小説からもインスピレーションを受けています。特に村上春樹の作品。彼の作品にあるマジック・リアリズムが大好きで、読むたびに頭が爆発しそうになります。
(C)Cine Chani / Historias de Bibi / Guasábara Cineドミニカ共和国は、いつまでも僕の物語のDNAでありつづけると思います。
サントドミンゴのカオス、絶え間ない騒音、強烈なヴィジュアルのコントラスト、僕たちの話し方、それら全てが僕の作品に一貫して流れる要素です。これらは僕にとってはとても自然なものですが、今回はドミニカの文化をできる限り可視化しようと意識的に決めていました。僕自身にとってしっくりくる物語、身の回りの世界に近しい映像、自分や友人たちが話しているように聞こえる会話を描きたかったのです。
1月24日から、シアター・イメージフォーラム他、全国順次公開。
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