「ラストミッション」ハート・オブ・ビースト さよならさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストミッション
ほぼブラッド・ピットと一匹の犬しか出てこない。
飛行機事故で森に取り残されたジェームズと、退役軍用犬のオーディン。
道路まで93キロ。野生動物、激流、怪我、繰り返す心臓発作。二人ともいつ死んでもおかしくない状態になりながら、互いを支えて進んでいく。
冒頭には、道路の真ん中に立つオーディンと、車を停めて降りてくる女性の姿が描かれる。そこから「1週間前」へ。
だからオーディンが生き延びることだけは、最初からわかっている。
そのぶん、旅が過酷になるほど嫌な予感もした。
ジェームズが倒れても、オーディンが道路まで走って助けを呼び、人を連れて戻ってくる道もあるのではないか。そんなことも考えていた。
けれど、二人で行けるのは途中までだった。
満身創痍のジェームズは、あと少しというところで力尽きる。
「ラストミッションだ。道へ行け」
しばらく亡骸に寄り添っていたオーディンは、動かなくなったジェームズの顔を舐め、何かを思い出したようにハッとして走り出す。
そして冒頭の道路へ戻ってくる。
オーディンの身体には手紙が託されている。
これを読んでいる頃には自分は死んでいるだろう。
自分を探す必要はない。ここで静かに朽ちていく。
その一方で、オーディンについては退役軍用犬であること、好きなもの、PTSDに苦しむことまで書き残し、識別情報や口座についても記して、新しい安息の生活を与えてほしいと頼んでいる。
自分のことは探さなくていい。
でも、この犬の未来だけは頼む。
それがジェームズの最後の仕事だった。
途中、森で出会った老人が本を残していく。指定されたページにある「Heart of the Beast」の言葉は、最後まで観るとオーディンそのものを語っていたように思える。
老人は神話に出てくる賢者のようで、最後に現れる女性は庇護者のようでもある。
そしてオーディンも、ただ偶然やってきた車の前に立ったのではなく、この人なら、と自分で選んだように見えた。
ほとんど男と犬しか出てこないサバイバル映画なのに、これは戦争の映画でもあった。
戦場はほとんど描かれない。
けれど、戦争は二人の身体と心の中に残っている。
戦争が終わっても、戦った者の中では終わっていない。
だからジェームズがオーディンに最後に与えたものは、単なる「生きろ」ではなかったのかもしれない。
もう戦わなくていい。
二人で93キロを生き延びようとして、最後の数百メートルだけ、オーディンはひとりで走る。
ジェームズは帰れなかった。
それでもオーディンの未来だけは、ちゃんと道まで送り届けた。
観ている最中より、あとからじわじわ削られる。
オーディン。
どうかもう戦わず、幸せに暮らしていてほしい。

