劇場公開日 2026年6月19日

「官兵衛が安楽椅子探偵に。時代劇×ミステリでジャンルを刷新する試み」黒牢城 高森郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 官兵衛が安楽椅子探偵に。時代劇×ミステリでジャンルを刷新する試み

2026年6月29日
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鑑賞方法:試写会

楽しい

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2021年6月に刊行された米澤穂信による原作小説は、直木賞と山田風太郎賞に加え、国内の主要ミステリランキングすべてで第1位を獲得して9冠を達成。織田家臣の荒木村重が謀反を起こし籠城した「有岡城の戦い」を題材に、城内で続発する怪事件とその謎解きという創作エピソードを大胆に組み込んだ面白さが、書評家や読書家らからの圧倒的な支持につながった。

映画化のメガホンを託されたのは黒沢清監督。ホラーを中心にサスペンス、ヒューマンドラマと手がけるジャンルを広げてきた黒沢監督にとって、ミステリ要素で時代劇映画の刷新を試みるのはやりがいのある挑戦だっただろう。

村重に翻意を促すため入城した軍師・黒田官兵衛が幽閉されたのはよく知られた史実だが、本作の妙味は牢につながれた官兵衛が村重から伝えられた情報を手がかりに、怪事件の真相を次々に解き明かしていくこと。つまり、推理小説で定番のサブジャンルである安楽椅子探偵の形式を、有岡城に立てこもる城主・村重と人質の官兵衛の関係性に当てはめ、時代劇ならではの風格や重厚さに現代的な謎解きの娯楽性を組み合わせたハイブリッドな魅力がまず挙げられる。

ただし、単に謎解きの連続で映画が進むわけではない。籠城が長引き家臣の裏切りを懸念する村重(本木雅弘)と、幽閉され衰弱しながらも村重への説得を諦めない官兵衛(菅田将暉)が、事件をめぐる問答を通じて互いの生き方、考え方を知り、次第に敬意を抱いていく、その関係性の変化も的確に描かれる。そうした一連の出来事を経て村重が至った心の境地が、有岡城の戦いの終盤に村重が取った行動をもたらしたという、もちろんそこも創作ではあるが、この「黒牢城」なりの歴史解釈を観客に提示する。

最後に余談めくが、今年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」では映画公開週末の6月21日の放送回「軍師官兵衛!」でまさにこの有岡城の戦いが描かれた。タイミングの良さを大勢が話題にしたことで、「黒牢城」の認知度向上に役立ったと思われる。偶然時期が合ったのかもしれないが、映画製作陣に大河の放送スケジュールまで把握してこの6月封切を決めた“軍師”がいたのかも、などと想像するのもちょっと楽しい。

高森郁哉