旅と日々のレビュー・感想・評価
全256件中、1~20件目を表示
言葉の向こう側にあるもの
脚本家の主人公が、言葉で表現することの限界を感じ、自分には才能が無いと自信喪失するまでの、夏の海パート。
亡くなった恩師からもらったカメラをきっかけに旅に出て、言葉の向こうにある美しさや豊かさを知り、その力を信じることができたことで心を再生させていく、冬の旅パート。
自然の音と美しい景色、人との交流、その時の表情が、言葉に頼らなくても雄弁に語りかけてくると気付いた時、主人公は言葉だけの力で何かを作ったり、組み立てたりするのではなく、ありのままを見せることで伝わることがあると知ることができた。
この作品は、同じ気付きを主人公を通して、私たちにも気付かせてくれる作品になっているのが、観る側のコンディションによっては、退屈でつまらないと感じてしまうかもしれない。
ストーリーを楽しむというより、繊細な物語の奥にあるメッセージを受け取り、こちら側から汲み取ろうとする気持ちで観る作品だと思った。
言葉を離れて、旅せよ人よ
つげ義春の原作を知らずに映画を観た。パンフレットを読んで、これは想像以上につげ義春をフィーチャーするための映画だと思ったので、原作も買って読んだ。
短編2作をもとにして映画は作られているのだが、前半の李が脚本を書いた映画、という体裁の劇中劇が「海辺の叙景」、後半の李とべん造のパートが「ほんやら洞のべんさん」をもとにしているようだ。
観ている最中は、随分渋いロードムービーだなぐらいにしか思わなかった。ちょっと驚いたのは、佐野史郎のくだりぐらいだろうか(あ、佐野史郎きた! もう死んだ! えっまた佐野史郎??みたいな)。話の構造から、「カメラを止めるな!」を思い出したりした(本作は冒頭でネタバレしているが、劇中劇が長いので)。
ラストシーンのあと、李はインスピレーションを得ていい作品が書けたんじゃないかな、と漠然と思った。
原作を読んで、映画で李が言っていた「言葉から離れる」という感覚が、物語のテーマなのではないかという気持ちが強くなった。
言葉のくびきから逃れたい、という彼女の気持ちを想像しながら眺めた一面の雪景色、実際には私一人では絶対に泊まることのないであろうべん造の宿。うさぎ小屋に書かれたうさぎの名前、元妻の実家に鯉を盗みに行くべん造。そこここに散りばめられた微かな可笑しさや癒しや哀しさが、ちらちらと光って消えてゆくような、何かとてもデリケートなものを見ているような気持ちになった。
旅で非日常に身を置くことで言葉から離れる、ということが何となくわかる気がした。
一方で、正直よくわからないままの部分も多かった。
根本的な話だが、まず原作「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を組み合わせた意図がわからなかった。劇中劇の内容は、映画の中では李の作品(厳密には李がつげ義春の作品を映像化したもの)であるということ以外に、李の現実の物語との相互の影響というか組み合わせの妙がわからず、「海辺の叙景」である必然性を感じ取ることが出来なかった。河合優実のビキニ姿が盛り込めて、映画的にアクセントが作れた……くらいだろうか(レベル低くてすみません)。
パンフレットの三宅監督インタビューには「夏と冬を組み合わせることでそれぞれの魅力もより味わえるのではないだろうか」といったことを考えた、とある。映像的なコントラストは確かにあったが、それだけでは監督の意図を十分読み取れていない気もする。つげ作品の魅力を理解することが鑑賞の前提にある映画、という印象を受けた。
正直強烈に刺さる作品とまでは言えなかったのだが、原作にはコアなファンも多いだろうし、かねてから評価されている作品が原作なのだから、私の理解が及ばない部分があるのだろうと思う(弱気)。映画がきっかけで原作を一読しただけの段階で何が言えようか。
原作云々を一旦切り離して感想を言えば、ロードムービーとしてシンプルかつ本質的。迷いのある人間が、旅で異質な誰かと触れ合い、前向きに生きる力を得る。単純にそれがよかった。映像も美しい。
そして、言葉から逃れるという感覚を思い出させる、言葉の外側の感覚を研ぎ澄まさせてくれる。原作を知らずとも、そんな体験があるだけでも観る価値があるのではないだろうか。
雪の上の足跡はなんか背徳感がある
脚本家が創作に悩む姿と、その作家の紡ぐ映画の二重構造から始まり、しかし後半は映画よりももっと映画の世界というか、真っ白い桃源郷みたいな世界に迷い込んでいく。
物語としては、ちょっとした旅の物語で、よくある人生の再発見ものと言えるかもしれないが、苦悩する脚本家の物語と、確かなレイアウトと美しい画で、非常に豊かで奥深い作品になった。何を苦悩しているのか、具体的には語られないのに、苦悩は伝わってくるのは役者の芝居も素晴らしいからか。
雪景色という舞台設定は特別感がある。真っ白く整頓された雪に足跡をつけていく作業は、なんとなく背徳感がある。ラストショットはその足跡はとても良かった。あの足跡、人が生きた証が刻まれていてすごくいい。
ところで、主人公の脚本家は大学での映画上映会の時に「自分には才能がないと思いました」とこぼすが、それはなぜなのだろう。映画自体は見事なものに見えるのだけど。
しかし、この芸術的にハイレベルな作品もマンガ原作なのだな。日本のマンガの層の厚さはすごいなとも思った。三宅監督だからここまでの作品になるわけだけど。
ガンギマリした画の迫力と奥行き
映画の冒頭は確か東京のビル群だったと思うのだが、そこにはただビルとビルが重なり詰め込まれフレームに収まっていて、その画として決まりっぷりに膝を正した。そして後部座席で河合優実が寝転がっている自動車の窓から、ネットで覆われた崖の岩肌が映っている。それだけでもう前半「海辺の叙景」パートが醸すただならぬ空気が伝わる。さらにどっちに倒れてくるかもわからない河合優実の危うさが画面に置かれることで、大したことは起きないが--なんて前置きするのががバカバカしくなるくらいエキサイティングで目が離せない。4:3のアスペクト比は大きくうねる波を映すときにも効力を発揮していて、こっちは波のうねりに合わせてわあわあと狼狽えながら眺めていることしかできない。
トーンとしては打って変わってのんびりする後半も、雪景色の明るさとその向こうの暗さや、民宿の中の暗さと窓の外の世界の広がりが、しんしんと積もる雪のようにじわじわと押し寄せてきて、ずっとヘンな緊張感がある。ただそれがしんどいとか怖いとかではなく、わりとしょうもない人の営みと、併存している世界の境界線を登場人物たちと一緒に漂っているような、ほんのりした非日常感みたいなものはおそらく旅情にほかならず、シム・ウンギョンが帰っていく頃にはしょうがねえなあ自分もまあやれることをがんばりますかくらいには背中を押してもらえていて、とてもありがたい時間だった。
旅や人生の本質をとらえた宝物のような映画
率直に思った。なんと豊かで、自由で、私たちを普段とは違う思考の場にいざなってくれる作品なのかと。小難しいことなど何もない。しかし構造は驚きに満ち、無駄がなく研ぎ澄まされている。つげ義春の原作をベースにこれほど奥深い旅の本質に触れられるとは。旅、それはもしかすると「人生」とも言い換え可能なものかもしれない。加えて、シム・ウンギョンという人はどうしてこれほど面白いのだろう。彼女が物思いに耽るたび、熟考の末に脚本を書き出すたびに我々の心は静かにふるえる。そして、何気ない表情とセリフを通じてこの脚本家とにわかに重なっていく。まるで私たち、脚本家、彼女の劇中劇という3つの世界が並存して繋がっているかのよう。言葉から遠く離れてもすぐに追いつかれる世の中で、私たちはそれを振り切るように旅を続け、その果てに各々にとっての秘密の場所を見つける。あの入江や雪国の宿のように、私にとってこの映画こそがその場所だ。
意味はない。でも価値はあるかもしれない。
つげ義春氏の作品は、昔床屋においてある「ねじ式」をパラパラめくっていた程度で、当時その独特の世界観が、世界的にも評価されるなど、露ほども考えませんでしたが、今になって思うと、何かを拒絶しているような印象がありつつも、安易な感情に流されることなく、ものごとを厳しくありのままに見つめ、そこから独特な詩情が漂ってくるような・・・そんな印象があったように思います。
この作品でも、登場する人物たちは、何かに挫折したり、取り残されたりしているように感じられる人物ばかり。でも夏の海の青や、冬の雪の白さの中で、何かが動き出す予感が感じられる点で共通しています。微かなおかしみと微かな希望。劇的なことは何もおこりませんが、結局人が生きるとか世界というものには、「意味」など何もない。でも、「価値」がないとは決して言えない。ではその価値とは何?それが、静謐な感覚の中で、微かにでも確実に伝わってくるように思えるのです。
今回の訃報で、水木しげる氏と同じ調布にお住まいだったと知りました。そういえば水木プロのアシスタントとして経歴を出発された方だったのですね。なんでも執筆の途中もふらりといなくなるので、水木氏をずいぶんと困らせたこともあるそうで、旅好き、放浪好きは、筋金入りだったこと、海外での評価が遅かったのも、つげ氏本人の出版許諾が2015年まで下りなかったのが原因だったことなど、氏らしいエピソードだと思いました。
ご冥福をお祈りします。
まあまあ楽しめました
トンネルを抜けると雪国であった
昨年、見損なっていた文学作品を鑑賞しにいきました。
予告編から連想される本作は"文学的旅小説"を期待したのだが。。。
劇中劇と本ストーリーを、もっとシンクロ的に絡めた 1本の合脚本にす冪映画の筈なのだが。。。
良い要素が多々用意されているのに、それをまるで生かしきれていない脚本はアレでした。 <糞脚本賞>
主人公の脚本家が着る服の大部分はキャラクター的に合っているのだが、
劇中劇の女性が着るぺらペラのブルーのシャツとスカートは、安っぽくて、映画を台無しにしていた<糞衣装賞>
劇中劇での固定カメラとセリフの後録が雑で、各種の音響効果とカメラワークも最低であった。
劇中劇だからと言って 学生映画の素人さを出す必要はない。 <糞演出賞>
堤真一さんは、存在感のある 非常に良い演技をしていました。<助演賞>
この映画を観たら、ノーベル文学賞小説「雪国(川端康成さん)」を読み、2つのシンクロされた ストーリーの活かし方を味わってむもらいたい。
そして、「雪国」を現代風に映画化して欲しいと、個人的に願います。
タイトルなし(ネタバレ)
キネマ旬報ベスト・テン日本映画1位のタイミングで観られたのは嬉しい!!
旅でも日常でも、普通の事を撮らせたらやっぱり三宅唱と言う作品🎥
ただの雪山が素敵に見えてしまうのも三宅MAGIC☃
シム・ウンギョンも淡々と演じているが、堤真一の役があるからこそシム・ウンギョンが光ると思う
旅する人の悩みと旅される人の悩み
画の力だけで観せきる凄さをさり気なく。
予備知識ほぼゼロで鑑賞。
ダラダラ撮っている風(失礼^.^;)なのに、全く無駄なカットが無いことに驚きました。色とカット割りが素晴らしく、少ない動きなのに飽きさせない画作りと音作りには敬服しましたわ。
演者の方々も素晴らしく、ベタベタしない普通の人の芝居が嫌味なく「そこに生きている」感じで良かったです。
笑えて、ホッとして、サラリと紡がれた映画でしたなぁ。それにしても堤真一さんと河合優実ちゃんはズバ抜けて素晴らしいわ。
睡魔との戦い
淡々と
素を知ることの豊かさ。
映画好きの友人から、さりげなく教えてもらった作品。さりげなく教えてもらわなければ、きっと観なかったと思うし、もしかしたら観て後悔したかも。
結果としては、観て良かった!
ストーリーが、ある意味機能しなくなった時代に、作られたストーリーに飽きと絶望をを感じ始めていた自分にピッタリとハマった。
ストーリーよりも前にある、映像作品としての素材の良さ。味で例えるなら鮮度で感じる生の尊さ。ミキシングを通す前の音の生っぽさ、自然の息遣いを全身で浴びている時の身体の目覚め。そういう時って人は鼓動が早まったり、気分が上がったり、心地よさを感じる。Less is more。
全256件中、1~20件目を表示














